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第3話 代わりに死ね

(一人称 帆一子 視点)

「ねぇ、内保さん。実は私も……内保さんと同じくAndroidだったんです。で、唐突なお願いなんですけど……私の代わりに回収屋さんに連れていかれませんか?」

 私は退勤する直前の土壇場で、退勤カードを持ったまま客席へとやって来た。そして、常連のお客さんで気心の知れている内保さんに身代わりになって貰えるかを聞いてみた。

 Androidとして最後の瞬間をハンマーで頭を潰されて迎えるなんて死んでも嫌だと、最後の最後になってそう思ってしまった。

「良いわよ。私に任せなさい!」

 小太りの内保さんはドンと胸を叩いて、力士のように両手を開いた。

「あ、ありがとうございます! あ、回収屋さん」

 バタンと言うわざとらしい音を立てて、黒スーツに黒いサングラスを掛けた二人組の回収屋さんがカフェの店先に停めた黒塗りの車から出て来る。

 ほんの少し遅かった。彼女に制服を着せて入れ替わればどうにかなると思ったのに……!

 最後の退勤カードは……切らない方が良いかな?

 回収屋さんを見て、私が一歩引いたのを観察されたのか……黒光りする革靴の足音は一段と速くなった。頭の中で彼我の速度を瞬時に計算する。――――捕まる。

 こうなるなら普段から少し運動でもしておけば良かった!

 駆け寄る回収屋さんの手が私の腕に伸びる。

 ――――刹那。

 ぼごぉ!

 内保さんの横綱並に太い両腕による市長式ラリアットが黒服の男を派手に転倒させる。インパクトの瞬間に張り裂けた両袖が芸術的にはためいている。

「私が帆一子よ! 連れていくなら私を連れていきなさい!」

 両腕を広げた十字架の様なシルエットの内保さんはそう言って此方(こちら)にウインクをする。

 自己犠牲の精神。悪くないんじゃない?

 私は店の入り口で呆けていた武康の襟を掴んで外へと走り抜けた。

「武康! 逃げるわよ!」

「ちょっとぉぃ! 俺の立場も……アアッ! もう! 分かったよッ!」


 分かったなら何より。


 私達はただ足を動かして就職先のカフェから離れる。たった1年だけれども、見慣れた人達を横目に年度末の街を走り抜けた。

 私は今夜――――この街と別れを告げる。

「おい! 何処行くんだよ! 一旦止まれって!」

 武康は私の手を掴んで立ち止まった。

「…………」

「黙ってたら分からないだろ! 残り何時間もないのに俺達何処に逃げるんだよ!」

「――――逃げない。向かってるのよ。私達が0:00過ぎても幸せに過ごせる場所に……」

「はぁ? そんな所有るわけ……」

 私は進行方向にあるシシク山を指差した。

「あの山なら武康とこの街を永遠に見下ろす事が出来る……筈。最後の瞬間まで私の側に居てくれる……よね?」

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