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第1話 くーるくる

 ――――朝。

 まぶた色の暗闇にカラフルな珈琲を(こぼ)していく様に、視界にゆっくりと色が広がっていく。鮮やかなぎん色の髪、もも色のくちびる、泣きぼくろのあるしろい肌。鎖骨から下を隠すようにして掛けられたサラサラのシーツはほんのりと控えめな丘を抱いている。

 俺はベッドを揺らさないように片膝を立てると、彼女が寝返りを打った。シーツの中の手が私の左手を探し当て、ぎうと熱を伝えてくる。

「おはよう」
「おはよ、起きてたのか?」

「ん、今起きたよ」

 彼女は目を(つむ)ったまま笑っている。俺は彼女を胸に抱き寄せて、あたまの上にかるくキスをしてベッドを出た。

 からからと窓を開けると、4月の新しい風がぬるい部屋に動きを与える。

COOL(クール)“L”(エル)飲む?」

 再びシーツにくるまった彼女に声をかけながら、ワンルーム併設のキッチンへ行き冷蔵庫を開ける。

「ん、お願ーい」

 背中の方向から気だるい声と聞き慣れた衣擦(きぬず)れの音が聞こえた。

 ――――俺の名前は北村(きたむら)武康(むこう)。彼女と暮らしはじめて今日で丁度1年になる。

 右手と左手でCOOL(クール)“L”(エル)を入れたコップを持ってベッドの脇にあるテーブルへと向かう。開け放たれた窓のむこうには青空。その中心では目を(つむ)ったままの彼女がのそのそとスカートを履いていた。彼女の両脇に広がる雲がまるで天使のはねのように見える。

 ボサボサになった髪、左に傾いた(あご)。半開きのくちびる。その全てがいとおしい。左右にうっすらと揺れている彼女の名前は()一子(かずこ)

 彼女はテーブルへ移動し、COOL(クール)“L”(エル)を飲んで幸せそうなため息をはいた。そして俺を見て微笑む。瞳にはうっすらと(残17:42)と映し出されていた。

 俺は、今日。この最愛の彼女と永遠の別れを迎える事となる。

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