001 はじまり、はじまり
「わぁ~わっ!わっ!落ちる、落ちる、落ちる」
そう、僕は いま空の上から 地上に向けて 真っ逆さまに落ちている最中だ
一体全体 なんでこんなことになってるのだろう
落ちながら、僕は 直前までのことを思い浮かべていた
学校帰りに ドラッグストアに寄って おベントとかドリンクとかちょっとした薬を買って でもって 支払い終わってお店を出たんだよな
そこまでは いいんだ
問題は、その後だ 前を 歩いてる男女四人組の高校生たち
彼らの足元におっきな幾何学模様が現れたと思ったら いきなりまぶしい光に包まれて 直後 僕の意識が暗転
気がついたら いまのこの状態ってわけだ
って、わぁわぁわぁ 落ちるよ 止まらないよ もう地上に着いちゃうよ
一瞬、身体が何かに包まれて ふわっと浮き上がったような気がしたのだけど 次の
瞬間 凄まじい轟音とともに再び僕の身体が 今度は 竜巻にでも巻き込まれたかの
ような勢いで上空に……僕は、意識を失った
どのくらい経ったのだろう、体中が 痛みで悲鳴をあげている
もう息をするのも苦しい 何が起きてるのか 何が起こったのかまったくもって分からない
なんだか上のほうから 声が聞こえたような気がする
ていうか 頭の中に 直接 響いてくるような そんな感じ
「…たいか 生きたいか、主は このままだと死ぬるぞ」
何がなんだか分からないけど 僕は 思った こんなまま死ねるか!
だから思わずこう叫んだ
「死ねるか!生きたいに決まってる」と
すると
「あいわかった。主のその意志、その強き思い しかと我に届いた、よってこれより 蘇生の儀をとりおこなう。」
声の主がそう言うと、僕の目の前に 大きく光る玉が映った。その光の玉は、ゆっくりと近づいてきたかと思ったら 音もなく僕の体の中へ吸い込まれていった。
瞬間、僕は 次第に 意識が遠のいていくのを感じた。遠ざかる意識の中、
「どうなることかと思ったが どうやら蘇生の儀は成功したようだ」と聞こえた気がした。
◇
「陛下、よろしかったのですか?あのような素性の知れぬものに 命玉をお与えになって。命玉は 陛下が新たな命を生み出すための 言ってしまえば 陛下の御子となるはずのものではなかったのですか?」
答えは、わかっていたが ここ竜皇国皇帝・ルージュ・エリステルに 改めて訊かずにいられなかった。
「よいのじゃ、ガストールよ、彼のものが あのような目にあったのは 我らの争いに巻き込まれた結果でもあるようじゃしの。お主は、気づかなんだか、あのものが、地上に落ちる寸前ほんのわずかだが ふわりと身体が浮き上がったのを…
おそらくは なにがしかの加護が働いたのであろうよ」
「となりますと、召喚の儀…でしょうか」
「おそらくな、ヒューム大陸にてかなり大きなマナの流れを感知した故な、愚かなことよ。いずれにしても われと邪竜となり果てたあやつとの争いに巻き込まれたのは事実、そして彼のもののあの力強い生への意志、すでに 事切れようとしているにもかかわらず あのような目の輝きを見せられてはのう」
ほんに どうなることかと思ったが 蘇生の儀が 成功してよかったわいと皇帝・ルージュ・エリステルは、ひとり呟いたのであった。