お気に入りの武器屋
サラです、今日は幸一君の武器を買いに行きます。いいものがあるといいなあ~~。
「あそこです──」
サラが指をさして案内する、そこには槍が二つ×の形に交差している絵の看板があった、そこでサラは足をとめた。
「ここが私のお気に入りの武器屋です」
店の窓ガラスから店内をのぞいてみる、すると壁に剣や槍、盾などがいくつもかけられていて武器屋というにふさわしい店内をしていた。
「サラちゃん、いらっしゃい」
店主らしき人が話しかけてくる。中年で腹が出ているふくよかなおばさんだった。しかし明るく元気よくサラに話しかけた。
「あれ?見ない顔だね、新規のお客さんかい?」
そう言ってサラは幸一の方を見る。
「サラちゃんにもとうとうこれが出来たのかい? よかったね~~」
店主はにやにやとした顔つきで小指を立てる、サラは顔を真っ赤にして顔の前で手を横にブンブンと振って否定する。
「そ、そ、そ、そんなんじゃないから~~」
サラが動揺している中幸一が自己紹介を始める。
「始めまして、私八田幸一と申します。今後もお世話になるかもしれませんのでよろしくお願いいたします」
「ああ、幸一君ね、何にせよお客さんが増えてくれるのは嬉しい限りだ、ってあんた、東方世界から来たんかい?」
「東方世界、何ですかそれ?」
幸一は聞いたことがない言葉に質問するとサラがそれに答える。
東方世界とはここから馬車で1か月の時間をかけて東へずっと行くとその世界はあるらしい、そこにもここと同じくらいの大国が二つあるとか。
サラが幸一の事情と扱いを説明する、彼こそがこの国に現れると伝説になっていた勇者炎の唯一王であると話すと──。
「あんたが炎の唯一王かい、へぇ~~」
そう軽く驚いて幸一の顔をじっと凝視し始める。
「何かどこか抜けていそうで心配だねぇ~~」
おばさんは表裏なくはっきり言う性格であった。
幸一は二人が楽しく話しているのを見ながら展示されている武器をじっと見る。
「これが武器屋、ふ~~ん」
「新入りにお客さん、よくうちを選んでくれたさね。なーに、後悔はさせんよ」
「サラにここがいいって言われてきただけだけどね」
そんなことを考えているとトントンと誰かが幸一の肩をたたく。すぐに振り返るとサラが何かを両手に持っていた。
それはサラの身長くらいの長さを持つシンプルな槍だった。
「これなんかどうでしょうか? 初心者にはぴったりの武器です」
サラによるとそれは「カシラニコフ」と呼ばれる槍であった。
貧者の武器と呼ばれ世界で1番多く生産された槍。
シンプルな構造で故障が少なく誰にでも扱いやすい構造をしている。また、組み立ても容易で折れても少し魔力を注入するだけで元に戻る初めて魔法を使うにはもってこいの武器なのだそうだ。
幸一はじっとその槍を見てこの「カシラニコフ」の購入を決める。魔法で戦うことに未経験であるのでまずは使いやすさを優先とした判断である。
幸一はそう考えながらカシラニコフを握ってみる。ずっしりとした重さだった。
(武器って結構重い、これで魔獣と戦うのか……)
そう考えたがある程度慣れるしかないと思い購入を決める。
「まいどあり、他には何を買っていくんだい? やっぱり鎧かな?」
「そういえば予算はどれくらい何だい?」
おばさんのその言葉に幸一は国王からもらった軍資金がどれくらいあるかを確認する。
サラにこれはどれくらいの価値があるのかを聞いてみる。すると──
「これはそこそこの金額ですよ、一回の食事で使う金額が大体二枚くらいですし、武器を買ったりホテルに泊まったりするくらいすればそれなりに金は掛かってしまうのでそれなりの資金という感じですね……」
その言葉から腕を組んで幸一は国王の意図を察する。
(ま、最低限の資金以外は自分で稼げってことか──)
「そう言えばこの世界には銀貨のほかに金貨と銅貨があるって聞いたけど相場はどれくらいなんだ?」
さっきのサラの言葉から疑問点があったので質問をする、するとサラが答える、金貨は銀貨百枚分、銅貨は十枚で銀貨一枚分だと。
それを聞くと改めて店の中にある鎧を見つめる。
店の右側には何種類かの鎧がかけられていた。それをじっと見ると店主が1番左の茶色の鎧を指差す。
「だったらアレなんかどうだい?」
店主によるとそれは初心者用の鎧で使いやすさと動きやすさが長所だと話す。
「いいかもしれないですね」
「ちょっと試しに着てみるかい?」
「そうですね」
「じゃあ奥へ行きな」
奥には更衣室があり幸一はその鎧に着替える、すると──
「いいね~~あんた、ちょっとはかっこよくなったね」
「はい、似合ってます」
店主とサラがその服装を褒める、それを見て購入を決意する。
「じゃあこれ下さい」
「ま、初めてだしおまけで銀五枚にしておくよ」
店主のおばさんの気前の良さに感謝の言葉が出る。
「あとは移動先で使う刃物が欲しいですね」
「え? 普通の刃物と何かつがうの?」
刃物なら城からここに来るまでに刃物の店があった、ここで購入する理由を聞いてみると、
魔術でコーティングされていて使っても歯がダメにならないので長持ちするから普通の刃物より多少高くてもこっちを使った方がよいとのことだった。
「そういえばこれ、手に入ったんだけれどどうだい?」
おばさんが持ってきたのは手のひらサイズの茶色の貝殻だった。しかし貝殻ではなく真ん中部分にはボタンのようなものがあって当然幸一にとって初めて見るものでありそれは何かと聞いてみる。そしてサラが答える。
「これはメモワール・ダイヤルって言って貝の一種なんですが特殊な機能が付いているんです、ちょっと試してみますね」
そう言ってサラは握っていた貝殻を口元に近づけ、ボタンを押す。すると「こんにちは」とそっと話しかける、そしてボタンをもう一回押す。ボタンを押すことで録音の切り替えができるようだ。
「この貝には録音機能があるんです」