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うそつきピエロ㊶




あの出来事から――――数日が経った。 結人たちはあの事件を忘れたかのように、今学校生活を満喫している。 結黄賊のみんなも、何事もなくいつも通りの日常を送っていた。 

ただ――――彼だけを、除いては。 

日向はというと、もういじめはしなくなった。 と――――思いたい。 
結人が清水海翔と喧嘩をして以来二週間くらい経つが、その間彼は一度も人をいじめていないのだ。 まだ油断はできないが、これでよかったと思っている。 
このままいじめというものが、日向の中から消えてくれたら一番いいのだが。 彼がいじめを止めた理由は、いくつか考えられた。 
まず一つは、優にやられた酷い仕返しに懲りたのか。
あるいは優が日向と決着をする時に予め準備しておいた、日向が結人をナイフで切っている時の映像を見せられて、もうこれ以上は動けないと思ったのか。
それとも――――清水海翔と喧嘩をした後に起きた、コウたちの喧嘩を見て怖気付いたのか。 どれが本当の理由でいじめを止めたのかは、誰にも分からない。
もしかしたら、今言った理由ではないのかもしれない。 だが、そんなことはもうどうだっていいのだ。 みんなにまた、平穏な日常が再び訪れてくれるのなら。

「お、ユイ!」
「おう」
結人は今、4組の教室の前にいる。 教室の中をぼんやりと覗いていた結人に気付き、未来と悠斗がこちらへやって来た。
「さっき、未来が授業中に寝て先生に怒られたんだ」
「へぇ。 未来寝不足か?」
「昨日悠斗と夜遅くまで電話していたからだ!」
「それは夜遅くまで電話していた、悠斗も一緒だろ」

未来と悠斗の仲も相変わらずだった。 この二人には、コウの件では色々と協力してもらっていた。 仕返しに関しても――――な。
未来は恐怖心なんて持ち合わせていなく、自分一人で突っ走って行くタイプだが、その性格が今回も上手く結人たちを誘導してくれたようだ。
悠斗も結人の知らないところで、優のことをきっと助けてくれたのだろう。 未来のこともあり、悠斗は大変なポジションにいた。 そんな彼には感謝だ。

そして未来たちとは別れ、次は2組へと向かった。 このクラスには、あの仲のいい二人がいる。 そう――――コウと優だ。 今回の件では彼らがメイン。 
この二人が喧嘩をするなんて、今まで考えたこともなかったため一時はどうなるかと思った。 だが喧嘩の理由が、彼ららしいなとも思った。 二人の性格がより分かった気がする。 
だから今回の件は“あってよかったのかな”と、今では思えた。 彼らは相変わらず仲がいいようで、休み時間になっても二人は一緒にいる。 
コウの席にいるということは、優が自ら彼のもとへ行ったのだろう。 優はみんなによく見せている癒しの笑顔を、今はコウにだけ見せていて、とても幸せそうだった。 
あんな優が喧嘩が強いだなんて、何かギャップが凄い。 一方コウは、そんな元気な優を優しく見守っている。 
コウはカッコ良くてモテるから、優が勝手に嫉妬をして、たまに喧嘩したりすることもあるみたいだが。 
そしてもう一つの報告は、コウと優はついこの間から一緒に住むことになったらしい。 優がコウの家へ移る感じだ。 
一緒に住むことになったのは、コウから優に頼んだよう。 『俺一人だと心細いから、一緒にいてほしい』とでも――――言ったのだろうか。 

―――・・・つーか、一緒に住むって、俺と藍梨の同棲に対抗する気かよ。

「ユイー!」
優が結人のことに気付き、コウを連れてこちらへ来てくれた。
「昨日ね、コウと一緒にゲームをしたんだぁー! でもね、コウったら強いんだよ! 手加減もしてくれない!」
「それは優が初めてするゲームだったからだろ。 慣れたら強くなるって」
「またそーやって俺を子供扱いする!」
「してねぇよ」
そんなやり取りをしている優の頭に、結人は自分の片手をポンッと軽く乗せた。 

―――可愛いくせに、背は高いんだよな。 
―――俺とあまり変わらない。

「コウと一緒にいられて、幸せそうだな」
「・・・うん! 幸せだよ」
優は突然の行動に驚いていたが、すぐ笑顔になりいつもの癒しの笑顔を向けてくれた。 

そして彼らとは別れ、今度は1組へと向かう。 ここではきっと、異様な光景が広がっているのだろう。 だって――――

「ははッ、日向だっせぇー!」
「日向ほんっと似合わないな、ははッ」
「なッ・・・! うるさいぞ、御子紫! 俺のを返せ!」
「いやいや、面白いからもうちょっとこのままでいようぜ」

そう――――日向と御子紫は仲よくなったのだ。 いや、仲よくはないのかもしれない。 御子紫が自ら、日向と仲よくなろうと近付いているだけなのだ。
そんな彼のことを日向は鬱陶しく感じているみたいだが、この様子ではそうでもなさそう。 どうして――――御子紫は日向と仲よくなろうとしているのかって?
それは結人にだって分からない。 強いて言うなら――――日向が可哀想に思えたからかもしれない。 いじめっ子は可哀想な人間って言うだろう?
だから心優しい御子紫は、そんな可哀想な日向と仲よくしてあげようと思っているのかもしれない。 
もしくは『日向は可哀想な奴だ、でも俺はそんな日向に優しくしてあげている。 偉いだろ』と、内心では思っているのかもしれない。
御子紫に、本当に悪い心があったとしたら――――の話だが。 

これが、今の結黄賊の日常だ。 変わったのは、御子紫と日向だけ。 彼ら以外は全く変わっていない。 みんな無事でよかった。 結黄賊も、誰一人欠けなくてよかった。 

これからもみんなは、仲間を大切にしながら――――一日一日を、一歩ずつ歩んでいくのだ。


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