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うそつきピエロ㉛




翌日 沙楽学園1年5組


いつもと変わらない日常の中、結人は教室で真宮と一緒に昨日のことについて話していた。
「で、結局日向は誰にやられたんだって?」
「清水海翔、っていう奴だってさ」
そう、日向は結黄賊が手を出して、やられたのではなかった。 未来も真宮もきっと、結黄賊の誰かがやったのだと思っていたのだろう。
「誰だよそれ」
「俺も詳しくは知らねぇんだけど、伊達いわく立川では喧嘩が強い奴なんだって」
「へぇ。 そんなに強いなら、一度でも会ってみたいな」
「止めろよ。 俺たちがやられたらどうすんだ」
「負けるわけねぇじゃん、この俺たちが」
そう言って、真宮は無邪気に笑った。 
―――・・・まぁ、そうだよな。 
―――俺たち結黄賊は最強なんだから。

結人は一度真宮と別れ、2組へと向かう。 そして優のことを呼ぼうとすると――――その隣には、コウもいた。 それも――――ごく自然に。
―――あれ・・・お前ら、いつの間に仲直りしたんだ?
―――・・・あぁ、確かコウが言っていたっけ。 
―――『俺から優に謝る』って。 
―――仲直り、ちゃんとできたんだな。
優も元気そうだった。 最近体調が悪そうで心配だったが、今は大丈夫らしい。 昨日、コウに看病でもしてもらったのだろうか。
何より、二人が元の関係に戻ってくれて本当によかった。 やはり二人で一緒にいるからこそ、コウと優なのだ。 

―――お前らは・・・二人で一つなんだよ。

二人のことを呼び出しふとコウの方へ目をやると、すぐに彼の異変に気付く。
「コウ、昨日は眠れなかったのか? コウは容姿も完璧で眉目秀麗な好青年なのに、そんな顔してっと勿体ないぜ」
そう、コウの目の下には僅かにクマがあったのだ。 そんな彼に対し、結人は冗談を交えながら指摘した。 まぁ冗談というより、本当のことなのだが。
「ん、ちょっと昨日あまり寝られなくて」
「何時に寝たんだ?」
眠たそうに苦笑いをしながらそう言うコウに、もう一度質問を投げかける。
「4時くらいかな」
「・・・は? 4時!? 何でそんな時間まで起きていたんだよ!」
「いやー・・・。 ちょっと優と話すのが久々で、楽し過ぎて」
―――そんな時間まで二人は話をしていたのか。
「何でコウはそんなに眠いの? 俺もコウと一緒で4時に寝たけど、別に今は眠くないよ」
「そりゃあ、優はその前に6時間以上寝ていたし・・・」
「え、何?」
「いや、何でもない」
寝不足が解消されたのか、顔がさっぱりしている優はそう疑問を口にするが、コウはその問いに対し小さな声で一人そう呟く。
どうやら優には聞こえていないみたいだが、結人にはちゃんと聞こえていた。
「ふーん・・・。 で、ユイはどうしたの? 俺たちに何か用があって来たんでしょ?」
「え? ・・・あぁ、そうだった」
優が上手いこと話を切り出してくれ、早速二人に用件を話す。
「日向が退院して次学校へ来るの、明後日だってさ」
「・・・そう、なんだ」
そう口にすると、先程まで元気だった優が急に大人しくなった。 そんな彼に向かって、結人は優しく言葉を紡ぐ。
「それでさ、優」
「?」

「俺は日向に仕返しをしたいんだ。 ・・・でもその仕返し、今回は優に任せるよ」

「・・・え、本当?」

―――俺だって、日向への怒りが治まったわけではない。 
―――今でも腹は立っているさ。 
だけど結人以上に、優の方が日向に腹が立っていると思う。 それに恨んでいると思う。
だから結人が日向に仕返しをしてスッキリしたとしても、優はこれから先もずっと根に持つかもしれない。 そうさせないために、今回は彼に任せようと思ったのだ。
「あぁ。 優も、日向に相当苛立ってんだろ? だったら好きにしたらいいさ。 あー、でも、一つ条件がある」
「何?」
「日向をまた、病院送りにはさせないこと」
そう言うと、優はいつも以上に笑顔になり大きな声で言い放つ。
「分かった! ありがとうユイ! 俺、未来のところへ行ってくる!」
「え、未来?」
優は結人の返した言葉も聞かずに、勢いよく教室から飛び出した。 どうして未来のところへ行ったのだろうか。
そんな疑問を抱きながらも再び2組の教室へ視線を戻し、この場に取り残されたコウを見て口を開いた。
「コウ、優と仲直りできたんだな」
「あぁ。 ユイのおかげだよ、本当にありがとな」
「俺のおかげじゃねぇよ。 コウが頑張ったんだ」
「・・・俺が頑張れたのも、ユイのおかげだから」
そう言って、コウは優しく笑った。
―――でも・・・そんな顔で笑われてもな。
「今優がいないから、この休み時間を使って少しでも寝ておけ。 ちゃんと今日は早めに寝るんだぞ?」
「あぁ、分かったよ」
コウを自分の席へ向かわせ、結人も自分の教室へ戻る。 これで仕返しは、全て優に任せることができた。 

―――さて、優はどこまですんのかな。 
―――そして・・・どこまで、日向は耐えられんのかな。

結人は少しだけ、この仕返しが楽しみだった。


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