野次馬根性
キッチンで夕食の準備をしていると外がえらく騒々しいことに気付いた。何事かと確かめる間もなく、居間で呑気にテレビを見ていた姑が野次馬根性丸出しですっ飛んでいった。
どうせ茶飲み話のネタにでもするのだろう。
足腰が痛いからと夕食の手伝いもしないで、こんな時ばかり達者なのには辟易する。
はああと大きなため息をついていたら悲鳴が聞こえて来た。
キッチンの窓を覗くと路地で見知らぬ男が刃物を振り回して暴れている。その周囲には数人が血を流して倒れていた。逃げる人々を追い、こっちに向かって走ってくる。
家の中に押し入られては大変だ。
急いで窓を閉め、玄関に走って鍵をかける。
姑の姿は確認できなかったがあの人のことだ、考えもなしに勢いで近付いて、もう刺されてしまっただろう。
怒号と悲鳴が近づく中、玄関ドアのノブが狂ったように回された。
やだっ、なんでここに来るの? 人質になるなんていやよ、他へ行って。
廊下の隅に身を縮めて隠れた。
きっと鍵かけてるから大丈夫。そう自分を勇気づけるが震えが止まらない。
あきらめたのか、ノブの動きが止まった。ドアの飾りガラスに移動する人影が映った。
あ、窓――
奥の和室の窓を網戸にしたまま開け放していたのを思い出し、廊下を走って和室に飛び込む。
網戸が開けられ窓枠に指がかかっていた。
「きゃあああっ」
恐怖に悲鳴を上げながら勢いよく窓ガラスを閉める。挟まった指が窓枠から離れたのを確認して急いでクレセント錠をかけた。ガラスを割って入られないよう防ぐものがないか目で探していたら窓の下から呻き声が聞こえて来た。思いっきり挟んでやったので皮膚が切れたか骨でも折れたのだろう。
遠くからパトカーのサイレンが近づいて来たが、まだまだ安心はできない。
夫が帰ってくるまでこのまま潜んでいようと和室の片隅に座り込んだ。
かちゃりと鍵を解き、ドアが開いて夫が帰ってきた。
「あなたっ、大変だったのよ。通り魔にもう少しで押し入られそうになっ――」
玄関先に駆け付けると夫の後ろで泣き顔の姑が立っていた。手には包帯を巻いている。
「あら、お義母さん、二階にいるとばかり――」
「お前、母さんが出ていったのに気付かなかったのか? 家に入ろうとしていたのは母さんだ。本当にわからなかったのか?」
「ええ、怖くて」
白々しいウソをつき、険しい表情の夫から顔をそらせながらふんと笑う。
もちろん、わかってたに決まってるじゃない。