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 最近人の声が聞き取りづらい。
 聴覚は確かに落ちているが自転車のブレーキ音やドアの開閉音など無機物な音はやたら頭の中で響く。
 これは初老に差し掛かったせいなのか、はたまた耳の障害なのか。まだ目立った支障はないが、妻に話しかけられても全く気づかないということが起こるかもしれない。
「ほああ、ほああ」
 赤ちゃんの声がかすかに聞こえた。
 まさか。近所に赤ちゃんのいる家庭はない。
「ほああ、ほああ」
 いや、やっぱり聞こえる。でも私の耳がこんな小さな声を拾うはずがない。もし本当に聞こえるならば、ただの物音がそんなふうに聞こえるのだろう。
「ほああ、ほああ」
 ああ、気になる。
 私は妻を呼んで泣き声が聞こえることを訴えた。いつものように鼻であしらわれたが、しばらくして妻にも聞こえ始め、慌てて周辺を探しまわる。
 ほどなく路地裏に捨てられた赤ん坊を発見し保護した。
 赤ん坊の声は生きるため、私のような耳にも聞こえるようになっているのだと感心した。

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