うそつきピエロ⑲
そして――――時は数十分前に遡る。
「真宮、行くぞ」
未来は真宮を誘い、早速日向を尾行しようとしていた。 理由はもちろん、彼を止めるため。 放課後すぐに真宮のもとへ向かい、日向をすぐに見つけ後を追っていた。
だが、一つ気になっていることがある。 それは帰りのホームルームが終わった後のこと。 未来が教室から出ようとした時、結人は走って未来の目の前を通り過ぎていったのだ。
どうしてあんなに焦っていたのだろう。
―――・・・まぁ、そんなに気にすることでもないか。
「なぁ、未来」
歩いていると、隣にいる真宮が口を開いた。
「何だよ?」
「俺はさぁ、何をしたらいいんだ? 未来の話だと、日向はナイフを使ってコウをやろうとしてんだろ」
「あぁ」
「だから、ただ見て止めるだけでもさー・・・。 何か、あれっていうか」
「どういう意味だよ?」
「んー・・・。 あ! あれは、動画とかは? 動画でも撮っておこうか? 日向とコウのやり取りを。 もし何かあった時、脅しとかで使えるだろ」
―――なるほど・・・動画か。
―――それは確かに、今後使えるかもしれない。
「その考えいいな。 じゃあ、それは真宮が撮ってくれるか? その間、俺は日向を止めに入るから」
「ん、了解」
簡単な打ち合わせをしながら、日向がいつもコウをいじめている場所まで来た。 二人は既に来ていて、日向はコウの目の前で立っている。
―――・・・くそ、何だよ。
―――お前がそこに立ったら、コウの様子が見えないじゃないか!
未来たちは――――日向のいる真後ろで待機していた。 もちろん壁を利用しているため、二人には気付かれていない。
そして日向たちは、今何かを話しているようだ。 だが二人共声が小さく、未来の耳には届いてこない。
―――一体何の話をしているんだ?
真宮は先程言った通り、ちゃんと彼らのことを携帯で動画を撮っていた。 コウのことが見えなくても、日向がナイフを持っていること自体が危険だ。
先生に言い付けたら、流石に認めてくれるだろう。
そして――――しばらく二人の様子を見ていると、日向の右手が突然動き出した。 そのままポケットへ入り、ある物をゆっくりと取り出す。 それは――――ナイフだ。
コウには見せないよう、そのモノをさり気なく背中に隠した。 だけどここまでは想定していたことだ。 事が起きる前に、早めに行って止めればいい。
「真宮、俺行ってくる」
「あぁ、分かった。 気を付けろよ」
未来は真宮のその声を聞き、覚悟を決めて日向から3メートル程離れたところまで走って向かった。
「おい日向! ・・・お前、そのナイフで今から何をしようとしてんだよ」
「・・・」
すると日向は未来の方をちらりと見るが、何も言ってこない。 そんな彼を、更に問い詰める。
「・・・そのナイフで、今からコウを痛め付けるんじゃねぇだろうな」
そう言うと、日向はやっと口を開いた。 もちろん身体は、コウの方へ向けたままなのだが。
「関口か。 こんなところまで来て、俺に何の用だ?」
「変なことはしねぇ。 だからそんな物騒なモノ、さっさと捨てろ!」
「嫌だと言ったら?」
「・・・だったら、力尽くでも止めるまでだ」
「関口・・・。 遅かったな」
日向はそう言ってニヤリと笑い、ナイフをコウに向かってゆっくりと突き出した。 そして――――もう片方の手で、ポケットからカッターを取り出す。
今度はその手を、未来に向かって突き出してきた。
―――おい・・・何をする気だよ。
未来は動けなかった。 こんなところまでするとは、当然想定なんてしていない。 ナイフだけでなく、カッターも持っていたなんて。
―――じゃあ俺は・・・どうやって止めたらいいんだよ。
怖くてその場から動けずにいる未来をよそに、日向はコウの方へゆっくりと足を進めていく。
「おい・・・! コウ、逃げろよ・・・」
日向が歩いたことにより、コウの姿が少しだけ見えるようになった。 だがコウはその場から一切動かず、少し強張った表情をして日向のことを睨んでいる。
「・・・コウ! 危ねぇから早く逃げろ!」
そう言葉を発しても、彼は動こうとしない。
―――くそ、何なんだよ!
―――俺がこのまま日向に向かって突っ走ればいいのか?
―――あんな刃を剥き出しにされたカッターを無視して、俺は突っ走ればいいのかよ!
日向は徐々にコウとの距離を縮めていく。
「コウ早く逃げろよ!」
―――くそ・・・もう無理だ。
―――このままだと確実にコウはやられる。
―――・・・ちッ。
―――もういい、どうにでもなれ!
未来は覚悟を決め勢いを付けて、日向に飛びかかろうとしたその瞬間――――突然誰かが、日向の目の前に現れた。