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うそつきピエロ⑮




数日後 休み時間 沙楽学園1年2組


優は休み時間だというのに、教室では誰とも関わろうとはせず、ただ自分の席に静かに座っている。 
そして小刻みに震える身体を自分の腕で包むようにし、落ち着こうと必死だった。

―――耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐える耐えろ耐えろ耐えろ。 

―――耐えるんだ!

今日も昨日も一昨日も、その前からもずっとコウへのいじめは続いている。 嫌でも彼のことを目で追ってしまうのだ。 同じクラスだから仕方がない。
コウを見るたびに、傷は増えていっている。 長袖で隠れている彼の腕も、きっとアザだらけで醜い状態になっているのだろう。

―――耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!

彼は未だに何も言ってこない。 まだ一人で自分と戦っているとでもいうのだろうか。 

―――どこまで自分を追い込む気なんだ、コウは。 
―――もう考えられない。

―ギチ。

優は爪を立て、そのまま腕にめり込ませた。 もちろん痛みなんてものは感じられない。 
痛みを感じるまで強くめり込ませているのに、そんなものは全くといってもいい程感じられなかった。

―――俺の感情は・・・どこへ行ってしまったんだろう。

コウと口を利かなくなり、一週間が過ぎていた。 優の心と身体は既にボロボロに近い。 今の優の身体には、アザや爪の跡、かさぶたなどがたくさんできていた。
これらはもちろん、自分の意志でやったものだ。 家でどうしようもなくなったら、壁を思い切り蹴ったり殴ったりしていた。 殴っては、手から血を流したり。
もちろん、隣には人がいないことを確認してから行っていた。 それにどの行為も心の痛みの方が強過ぎて、肉体的の痛みは全然感じられない。
このどうしようもないくらいに苦しい心を落ち着かせるためには、自分に痛みを与えるしかなかったのだ。 だがそれでも痛みは感じないため、やっても意味がない。
それに最近は、十分な睡眠も取れていなかった。 だから今もの凄く頭が痛い。 今朝からずっと頭がじんじんしている。 授業なんて、まともに受けることができない。

―――もう・・・無理だ。

どうしたらいいのだろう。 こんな酷い状態から、どうやって立ち直ったらいいのだろう。 

―――というより・・・俺はこのまま、立ち直ることができるのか?

一人だと優は何もできない。 優一人では――――無力なのだ。

―――こんな苦しい感情をなくすには、コウのことを忘れればいいのかな・・・。
―――・・・そうだよね。 
―――それが合ってる。 

コウのせいで、自分はこんな酷い状態になってしまった。 そう――――全て、コウのせい。 コウが悪いのだ。 

コウが自分の目の前にいるから――――悪いのだ。

―――コウの存在を忘れてしまえば、俺は楽になれるのかな。
―――そうだ・・・そうしよう。

もうコウの味方になんてならなければいい。 そうすれば、自分を苦しめる必要なんてない。 気持ちが楽になって、幸せじゃないか。
―――これでいいんだよね? 

だって――――

―――俺がずっとコウの味方でいても、どうせ無意味なんだから。
―――ごめんね・・・コウ。 
―――俺はコウよりも自分のことを選んだ、最低な男だ。 
―――でも、これでよかったと思っているよ。 
―――だって・・・俺自身が、楽になれるから。

そして――――優はコウから貰った筆記用具から、静かにカッターを取り出した。


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