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うそつきピエロ⑭




数日後 放課後 路上


結人は藍梨と一緒に下校していた。 今日はみんなの集まりがないようで、二人は結人の家へ向かって歩いている。
そして、コウの様子を見ることになってから数日が経っていた。 だが未だに彼からは、相談を持ちかけられたことが一度もない。 
まだ一人で大丈夫だということなのだろうか。 といっても、コウを見かけるたびにいつも思う。 傷が日に日に増えているのではないか――――と。 
だが彼は、何食わぬ顔をしながら普通にクラスメイトと接していた。 その光景を見て不自然だと思うことは、やはりコウの隣には優がいないということだった。 

―――どうしてこれだけのことで、こんなにも違和感が感じられるんだろうな。

一方優はというと、あまり2組に顔を出していないから詳しいことは分からないが、結人に何も言ってこないため一応は大丈夫だと思われる。 まぁ、実際は分からないのだが。 
たまに優と廊下ですれ違う時、彼は一人ずっと俯いていた。 だから完全に、大丈夫だとは言えないだろう。

―――また何日か経ったら、優の様子を直接見に行こう。 
―――ついでに、コウの様子もな。

「結人ー。 最近優くんとコウくんって、あまり集まりに来ないよね。 二人でどこかへ行っているの?」
「え? ・・・さぁ。 どうだろうな」
―――藍梨も、二人のことには気付いていたんだ。 
―――藍梨にも心配をかけちまって・・・何か、悪いな。
きっと他の結黄賊のみんなも、二人のことには気付いているのだろう。 だからみんなに心配をかけて大袈裟になる前に、コウのことは解決させたいのだが――――

「あっ・・・。 助けなきゃ!」

「ん?」

藍梨はそれだけを言い捨て、車道へ勢いよく飛び出そうとした。
「なッ・・・! おい藍梨! 何危ないことしてんだよ!」
その行為を見て、慌てて彼女の腕を掴み引き止める。 すると藍梨は結人の方へ顔だけを向け、抵抗し出した。
「だって、今そこに子供がいるんだよ!? ここままじゃあの子、車に轢かれちゃう!」
「え?」
その言葉を聞き、彼女の行こうとしていた方へ視線を移した。 そこには言っていた通り、小さな男の子が車道の真ん中にいる。
藍梨は再びその少年を見たら急に暴れ出し、掴んでいた手を振り払おうとした。
「結人、行かせて!」
「あぁもう、分かったよ! 俺が行くから藍梨はここで待っていろ!」
藍梨を行かせないよう、車道から歩道へ力ずくで彼女を引き戻す。 そして結人はその勢いで、子供のもとへと全力で走った。
車はブレーキをかけ大きな音を立てながら、少年の方へ向かって突進してくる。 

結人は車とぶつかるギリギリのところで、子供を抱きかかえ――――反対側の歩道に向かって転がった。 

もちろん少年に被害を与えないよう、頭をちゃんと守りながら。 そして安全な場所まで来たところで安否を確認すると、どうやら無事みたいだ。 
だけど念のため、もう一度子供自身に確認を取る。
「大丈夫か? 痛いところとかは・・・」
「うわあぁぁぁん!」
そう言いかけると、突然少年は泣き出した。 その様子を見て、結人は慌て出す。
「えぇ!? え、ちょ、大丈夫? どこか痛いところでもあるのか?」
子供の頭を優しく撫でながらそう声をかけるが、泣き止みそうにない。

―――マジかよ・・・。
―――これからどうしよう。 
―――つか、この子の保護者は今どこにいんだ!

そう思った瞬間――――結人から見て右側の方から、女性の声が聞こえてきた。
「ひろき! ひろき、大丈夫? 痛いところは?」
どうやらこの子のお母さんのようだ。 その女性は走って結人のもとまで来て、子供のことを慰めている。
―――・・・つかこの状況、どこからどう見ても俺が子供を泣かせたみたいに見えるんじゃないか?
子供はお母さんが来てくれて安心したのか、少し泣き止んだ。 そしてお母さんは結人の方へ向き直り、こう言葉を発する。
「貴方が助けてくれたんでしょう? 遠くから見ていたわ。 助けてくれて本当にありがとう、貴方はひろきの命の恩人よ」
「え? あ・・・はい。 よかったです、その、お子さんが無事で・・・」
―――よかった・・・責められるのかと思ったぜ。 

この後結人は子供のお母さんと少し立ち話をし、藍梨のもとへ戻ろうとした。 
そのため反対側の歩道へ視線を向けると――――そこには藍梨と、もう一人見知らぬ男性が立っている。 その男は容姿でいうと悪くはない。 
顔もよくて、女子からも人気がありそうだ。 普通に私服のセンスはよく、髪は明るめの茶髪でアクセサリなどもたくさん身に付けている。 

一言で言うと――――ホスト。 

そんな感じの男だった。
―――は!? 
―――誰だよアイツ! 
―――藍梨にナンパしていいとでも思ってんのか!?
少し苛立ちを感じつつ、二人の間に割って入り藍梨の腕を掴んだ。
「あの! 俺の彼女に、何か用っすか」
相手の顔を睨むようにしてそう言い放つと、男も結人に向かって睨み返しながら口を開く。
「あぁ? お前がこの子の彼氏かよ。 ふッ、思っていた以上にひょろひょろだな」
「・・・何が言いたいんですか」
「この可愛い女の子に、俺一目惚れしちゃったみたいでさぁー。 だから彼女、この俺に譲ってくんね?」
相手は藍梨のことを気持ち悪いくらいにニヤニヤしながら見ていて、凄く気味が悪い。
「は・・・。 何を言ってんすか。 アンタなんかに藍梨をやるわけねぇだろ!」
「へぇ・・・。 この子、藍梨って言うのか。 よろしくね? 藍梨ちゃん」
そう言って、男は藍梨に向かって笑いかけた。 その笑顔は先程見たニヤニヤしていて気味が悪いと思った時とは全く違い、どこかのアイドルのような眩しい笑顔でそう口にしている。

―――藍梨・・・。
―――コイツなんかに、惚れんなよ。

そう思いながら彼女を見ると恥ずかしがっているのか、それとも嫌がっているのかは分からないが、ずっと俯いたままでいた。
手を出してでも男を止めたいと思ったが、相手は喧嘩なんてやらなさそうだ。 お洒落に気を遣っているというか、身だしなみはきちんとしていて汚れることを嫌っていそう。
だとしたら、藍梨を引っ張ってでもこの場から逃げ出そうか。 
―――それが・・・一番いいか。 
―――藍梨にも、被害が出なくて済むしな。

~♪

そう覚悟を決め藍梨の腕を強く掴み直そうとした、その瞬間――――突如、男の携帯が鳴り響く。
「・・・はい。 あぁ、どうも。 ・・・・あー、分かりやしたー」
それだけを言い、相手は電話を切った。 そしてそのまま、結人に向かって口を開く。
「今日は仕事が入っちまった。 てことで、また次会ったら話し合おうぜ? 俺はまだ諦めねぇからな。 じゃあ藍梨ちゃん、またな」
男はもう一度藍梨に向かって笑いかけ、この場を離れていった。 
―――一体何なんだ、アイツ。 
立川では初めて見る顔だった。 男の名も分からないため、これから調べて見つけ出そうとしてもきっと無理だろう。 
―――・・・もう二度と、会わなきゃいいんだけど。
そこでもう一度藍梨のことを見た。 彼女は不安そうな表情をしていて、少し震えている。 そんな藍梨に対し、結人はこの場を和ませようと明るめな声を出して言葉を口にした。
「・・・藍梨、モテ過ぎなんだよ。 俺にだけモテればいいのに、どうしてこうも他の奴にも惚れさせちゃうのかな」
「・・・」
それでも彼女は、俯いたままだった。


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