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みんなでキャンプ②



「到着ー! おぉ、みんなやってますねー」
御子紫が河へ着いて早々、大きな声を出して騒ぎ始める。 ここには結人たち以外にもたくさんの人がいた。 どうやら家族連れが多いようで、とても賑わっている。

伊達は結黄賊のみんなと一緒に行動している時、自分の立ち位置が未だに見つけられずにいた。 本当に今日、自分も付いてきてよかったのだろうか。 
みんなはいつも仲がよくて、その中に自分も交ざるというと自分だけが浮いてしまっているようにも思える。 そんな伊達のことを、彼らはどう思っているのだろうか。 

―――・・・邪魔だとか、思っていないのかな。

「よーし! じゃあ、釣り対決でもするか」
「いいね! どうチーム決める?」
「・・・あれ? つか人数足りなくね?」
そう言葉を発した椎野につられ、伊達は周りを見渡した。 

―――そう言えば、何人かいないな。 
―――どこへ行ったんだろう。

「まぁ・・・いっか。 ここにいるメンバーだけでやろうぜ」
今いるメンバーは、伊達・椎野・真宮・夜月・北野・御子紫だ。 

―――いや、半分もいなくなっているのに勝手に進めてもいいのか?

「じゃあ俺、釣りは初めてだから夜月をもーらいッ!」
そう口にしたのは御子紫だ。 夜月は釣りが得意なのだろうか。
「それじゃ、俺は伊達で」
伊達の隣にいた椎野も、続けてそう発言をする。
「おっけ。 じゃあ、北野と俺でチームな」
「よし! 伊達はここで待っていて。 俺、釣り竿を借りてくるわ」
「あ、おう」
椎野はそう言って、釣り竿を貸出している小屋まで走っていった。 チームは誰でもよかったため、彼に決まっても文句はない。

―――・・・ユイは、どこへ行ったんだろう。

ここでふと結人のことを思い出した。 どうしてこんなにも彼のことが気になるのかは、自分でも分からなかった。 
ただ一つ言えるのは、今回『みんなでキャンプへ行こう』と言い出したのは、結人だったのだ。 そして、キャンプに伊達を誘ったのも彼。 
特に理由はないかもしれないが、どうして自分を選んだのだろう。

―――藍梨がいるから仕方なく誘った・・・っていうわけでも、なさそうだよな。

「お待たせー。 伊達は釣りやったことあるか?」
戻ってきた椎野から釣り竿を受け取り、その問いに答えていく。
「あぁ、あるよ」
「そっか。 それじゃあ、俺たちは経験者だから有利かもな」
針に餌を刺し、それを河の中へ沈めた。 椎野も伊達に続いて、針を落とす。 

そして釣りを開始して――――2分が経った。

―――・・・特に会話する内容もないな。 
―――どうしよう。

「なぁ、伊達」

この場をどうしようかと考えていたら、椎野が先に口を開いてくれた。 この気まずい状況の中、助けられたと素直に思う。
「何?」
「伊達は俺たちのこと、どう思っているの?」
「・・・え?」
彼の真っすぐなその問いに、一瞬戸惑ってしまった。 ここは何と返したらいいのだろう。 
別にここにいるみんなといて楽しくないとかつまらないとかは、思ったことがなかった。 寧ろ一緒にいて楽しい。 
だが、彼が求めている答えはこういうことなのだろうか。 結局どう答えたらいいのか分からず、助けを求めるように椎野のことを見ると、彼はこちらを見ていた。 
いや、伊達を見ていたのではない。 伊達の右隣にいる、仲間のことを見ていたのだ。 そんな彼につられ、自分も右の方を見る。 
そこには――――楽しく釣りをしている、みんなの姿があった。

「ここに餌をくっつけんの!」
「餌って何? このミミズとかじゃないよな!?」
「ここにいる魚はミミズが一番よく釣れるんだよ。 だから早く持って」
「いや待って! 待って夜月! 許して!」
「許してって、何を許すんだよ。 いいから早く持てって」
「だから止めて!」
夜月と御子紫が餌に関して言い合っている。 御子紫は虫が苦手なのだろうか。
「御子紫、そんな調子じゃ全然魚釣れないね」
「そういう北野はミミズを触れんのかよー」
「害はないから大丈夫だよ?」
「あ、北野北野! 来てる来てる!」
「え? あ、本当だ!」
御子紫と話している最中に、北野の釣り竿に魚が引っかかったようだ。 真宮も急いでフォローに入る。

「お、俺んとこも来た来た。 ・・・よし、一匹目ゲットー! ははッ」
隣で椎野も釣れたようだ。 伊達たちのチームも順調。 彼を見て自分も釣りに集中しようと、河へ視線を落とす。

「・・・ユイってさ」

「?」
すると突然、椎野が結人の名を口にした。 そして彼は、優しい表情をしながらまた結人の名を口にする。
「ユイってさ。 いい奴だよな」
「え? ・・・あぁ、そうだな」

―――急にユイをいい奴扱いされても困る。 
―――・・・俺は何て反応したらいいんだよ。 

今の状況に困惑している伊達をよそに、椎野は更に言葉を紡いでいく。
「ユイはさ。 普段はふざけて、調子に乗って、一緒に馬鹿やったりしてさ。 ・・・でも、いざという時には助けてくれるんだ」
彼は今までの過去のことを思い出しながら、そう言葉を綴っているように思えた。 今の彼の顔を見ると、とても優しくて穏やかな表情をしているからだ。

―――・・・ユイとのいい想い出を、今思い出してんのかな。

「それで、ユイはな。 俺たちのことを何だかんだ言っても、ちゃんと見てくれているんだよ。 俺たちのことを大切に思ってくれている。
 それに俺たちが何かに悩んでいたり困っていたりすると、親身になって話も聞いてくれるんだ」
「・・・うん」
「だから、ユイとダチになって悪いことはないと思うよ。 きっと伊達のことも、大切に思ってちゃんと見てくれると思うから」
そして最後に、全てをまとめるかのようにこう付け足してきた。
「まぁ、出会ってばかりの伊達にはまだ分からないかもだけどな」
「・・・」

―――・・・いや、分かるよ。 
―――椎野。 

確かに伊達は、椎野たちよりも結人と過ごした時間ははるかに短い。 だが分かるのだ。 こんなに短い時間でも、結人は人のことをちゃんと見ているいい人だと。

―――どうしてだろうな。 
―――・・・何でアイツは、いい奴だって思えるんだろう。

ここにいる結黄賊のみんなとは違う。 結人だけ――――彼一人だけ、みんなとは何かが違うのだ。

「・・・ユイは、俺もいい奴だと思っているよ」

伊達が独り言のようにそう呟くと、椎野は隣で優しく微笑んでくれていた。 


そして――――釣りを始めて、3時間が経とうとしている。
「よーし、そろそろ終わり! 結果発表ー!」
御子紫が仕切り、みんなは手を止め一ヵ所に集まった。 結果は真宮と北野のチームが魚を釣った数が一番多いため、彼らが勝利。 
勝利はしたが、勝ったチームへのご褒美とかは何もなかったのだけれど。 2位は僅差で伊達たちで、3位は夜月と御子紫。
御子紫は最初から最後まで、ずっとミミズと戦っていたらしい。 夜月は一人でよく頑張ったと思う。
「みんな遅いなー。 どこまで行ったんだろう」
真宮の何気ないその一言に、伊達も周りを見渡した。 確かに、結人たちの姿は未だに見えない。 

―――・・・本当に、どこまで行ったんだろう。


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