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第20話

––––アハハハハハッ!

口を大きく開け、心の底から楽しげな笑い声をあげて児啼(こぎゃなき)のひとりが金之助(きんのすけ)を抱きかかえているアバズレンに飛びかかってきた……が、

––––ガッツ!

アバズレンは力強く蹴り飛ばした。
見るからに子どもを、である。
普通の大人なら少しは躊躇(ちゅうちょ)するであろうところを迷いなくやってのけた。

「児啼––––バンジーか。こりゃ厄介」
つぶやきながら続いて駆けよってくる子の胸を蹴りつけ、弾き飛ばす。
子どもの姿は仮のものであり、大人をやすやすと踏みつぶすことができる力を持っている(あやかし)と知っていればこそ、アバズレンの攻撃に容赦はない。
続く犬よりも猫よりもすばやく四つん()いになって迫ってきたバンジーの、まだ髪も生え揃っていない頭頂にかかと落としを決める。

「ひっ!」
見るに()えないと金之助は両目を手のひらで隠す。

––––バキッ!

––––ガスッ!

––––ボカッ!

骨と肉を打つ鈍い音が連続して響くが、金之助には何も見えない。何も見ないようにしていた。と、そこへ、

––––ヒュルルルルルルルルル。

また口笛のような音。

––––ルルルルルルルルルルル。

近づいてくる。

––––ルルルルルゴゴゴゴゴゴ!

後半は轟音であった。
耳を(ろう)する爆音が突風をまといながら部屋に飛び込んできた。

––––その正体を、金之助は見た。

目を覆った手の、その指の隙間から(のぞ)いて見えた「それ」は、回転する黒々とした人の頭ほどの丸い物体––––すなわち鉄球……砲弾であった。
白い尾を引きながら回転しつつその砲弾は、部屋の入口、児啼(バンジー)の群れの中に吸い込まれていく。

––––ドゴゴゴゴーンッ!

金之助の鼓膜をひっぱたき、胃を揺らし、骨をきしませる大音量とともに、砂塵(さじん)が視界を埋め尽くす。
一瞬で絶命したパンジーたちの残骸が部屋の中を荒れ狂い、灰色ただ一色に染め上げる。
そして、

––––ズババババーン!

強烈な風圧がアバズレンの背を蹴りつける。
金之助を抱いたアバズレンの身体が浮き、いま砲弾が入ってきた壁の穴から外界へと突き飛ばされた。

「うわわわわわわっ!」
彼に横抱きにされている金之助も、ものすごい風の力を後ろからも前からも受ける。
その烈風に顔面をひっぱたかれ、目をつむるどころかまぶたがひん()かれ、クワッと見開く。

そして、そこに写ったのは空の(あお)

浮揚感––––たが、空を飛んでいると感じたのはごくごくわずかな時間。
刹那、重力の拘束力を否が応でも教えられる。

次に金之助の視界を占めたのは(あお)

海の色だ。
金之助はアバズレンに抱えられたらまま、海面へと落下する。

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