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第5話

金之助(きんのすけ)(のぼる)は、火を出さんばかりに顔を(あけ)に染めあげる。
「ちっくしょう!」
舌打ちするや、背を反らしてさらに声高に笑う看護婦に升が飛びかからんとした––––その時、
「無事で良かった!」
成行(しげゆき)がかけ寄り、升を背中から抱きしめた。
「ひ、ひぎぃぃぃ!」
再会の感激のあまり成行が両腕に力を入れると、升の骨がきしみ、叫びをあげる。
「……ぐっへぇ」
熊か鬼の絞め技もかくやの手厚い抱擁で升がぐったりとなる段になり、はじめて成行はこの部屋の異常さに気がついた。

ベッドに寝ている子どもたち、そのすべてが頭や顔や腕に包帯を巻いている––––それはわかる、病室だから。

––––だが、その手もとに太刀や小太刀が置かれているのはなぜだ。しかも全員が全員、である。

「あっ、森先生!」
看護婦は元次郎(もとじろう)にの陰にいた林太郎を見つけると駆け寄り、
「もう、今日に限ってお医者さまたちも看護婦さんたちも、いらっしゃらないの〜」
その太い眉を八の字にして訴える。
「……」
林太郎は顔を伏せて答えない。
「……森先生?」
看護婦は林太郎の顔のぞき込む。
「お身体の調子が悪いのですか?」
「あ? え。えーと……ゴホッ、ゴホッ。(せき)が、咳が。感染(うつ)るといけません! ふささん離れて」
マスクをした口元をさらに片手で覆い、空いた方の手をひらひらさせて看護婦––––ふさを追い払う。
「……」
ふさは(いぶか)しい表情のまま、林太郎から距離をとった。

––––ギャァァァァァァァァァ!

悲鳴が階上から響いた。
「……またかよ?」
成行は苦笑する。しかし、さきほどの升の叫び声より悲壮感が強い。断末魔と言ってもよい。
「……林太郎さん」
成行は部屋の入口に立つ林太郎に視線を送る––––が、そこには林太郎、そして元次郎の姿はなかった。

成行は升から離れると階上に行くべく部屋を出る。
「……ったく、何だ、何だよ!」
急に成行が自分を解放したかと思ってたら、勢いよく駆けだしていく。
升は金之助の顔を見る。
「……行こう」
金之助は強くうなずくと、升とともに部屋を出る。
「……え、え、えっ?」
ふさも戸惑いながらもふたりの後に続いた。

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