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平和な時間。
平穏な状況とはいえない。
しかし、ピノは嬉しかった。
災いは忘れかけたころにやってくる。
ピノは、忘れていた。
自分もまた咎人であることを……
楽しい時間が去りピノは部屋に戻ろううと道を歩いていた。
「ピノ」
低い男の声がピノの心に響く。
「え……」
ピノは、その声を知っていた。
――アスペルガー。
長期間ピノを苦しめた存在。
「お前の飼い主は誰だ」
アスペルガーが問う。
「私の飼い主……?
ピノに飼い主なんていないもん」
ピノはそういってその場を離れた。
しかし、その声は追ってくる。
逃げても逃げても追ってくる。
「ピノ。
お前の飼い主は誰だ?」
「ピノは誰のものでもないもん!
ピノはピノだもん!ピノは誰かのものになるのならボクがいい!」
ピノは、涙目でそう訴えた。
「ならば……ボクを殺してしまおうか」
「え?」
ピノの表情が固まる。
「ボク。
咎人。お前と同じ経験地が豊富に貰える存在。
お前と同じく我を満たすだろう」
「やめて」
「なぜだ?
飼い主に逆らうのだ。
それにふさわしい罰を与えなければな」
「私、なんでもするから……
だから、お願いボクには何もしないで……」
「なら、戻ってこい。
なら許してやる」
アスペルガーの声にピノは逆らえなかった。
――数時間後、ピノはアンゲロスから姿を消した。