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しあわせなんて考えたことがなかった。
死ねば全てから開放され楽になれると思った。
でも、心の何処かで夢を見ていたしあわせ。
「ピノ、お嫁さんになれる?」
ピノの言葉にイリアがいう。
「なれるよ。
綺麗な立派な花嫁さんに」
「わーい」
ピノが嬉しそうに笑う。
ボクは、その様子を暖かい気持ちで見ていた。
結婚。
自分には関係ない話だと思った。
ピノがボクの方を見つめる。
「ボク、ピノのことをお嫁さんにしてくれる?」
「え?」
ボクの頭がまっしろになる。
「ダメ……?」
ピノの目に涙が浮かぶ。
「ダメとかそういうんじゃなく。
なんでボクなの?
そういうのは、好きな人とするもんでしょ?」
「ピノ、ボクのこと好きだよ?」
「え?」
ボクの胸の鼓動が早くなる。
でも、それは違うものだと思った。
好きは好きでも恋愛の好きじゃない。
なぜなら、自分は愛されない。
そう思っていたから……
だから、自分は――
すると亜金が口を開く。
「ボクくんは愛されていいんだよ?」
「え?」
「愛されていいんだ。君は優しいから」
亜金の言葉は優しく。
でも、どこか淋しげだった。