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執事コンテストと亀裂④




今から結人と柚乃が別れた時の話をしよう。 二人が付き合っていた時のことだ。 柚乃は結黄賊といつも一緒にいた。 
結黄賊が喧嘩をしている間も、遠くから結人たちのことを見守ってくれていた。 

だけど――――いつも結黄賊と一緒にいたせいで、彼女は大変な出来事に巻き込まれてしまったのだ。 

結黄賊は喧嘩に絶えなかった時期がある。 それは“赤眼虎(レッドアイタイガー)”というカラーセクトのチームが現れた時からだった。
赤眼虎は“カラーセクトの中でトップになりたい”という、それだけのことが目的であるチーム。 
トップになるためには様々なカラーセクトと喧嘩をし、その勝負に勝つこと。 そしてある時、ついに彼らは結黄賊に対決を申し込んできたのだ。
だが結黄賊は喧嘩目的のチームではないため『俺たちは負けでいいから他を当たってくれ』と頼み込んだ。 だけど赤眼虎は諦めない。 
彼らからは『カラーセクトは理由など関係なく全て潰していく』と言われていた。

そしてある日、赤眼虎が結黄賊に無理矢理喧嘩を売ってきて――――その場から逃げるわけにもいかず、そのまま抗争を起こしてしまったのだ。 

その結果――――結黄賊の勝利。 

だが当然、その結果で彼らは引き下がるはずもない。 そして結黄賊が赤眼虎に勝ってからの、数日後――――突如柚乃が攫われた。
柚乃を攫った理由は、結黄賊のリーダーの彼女を攫えば結黄賊のリーダーはもちろん彼女を助けに来るからというもの。
一人で来たところを、数人の赤眼虎が結人を襲撃するという計画だ。 ハメられることは分かっていながらも、結人は彼女を助けに足を運んだ。

だけど結人は――――柚乃を、助けに行くことができなかったのだ。 

怖くて、足がすくんで動けなかった。 彼女はもう、目の前にいるというのに。 だけど結人は、これ以上足を前へ進めることができなかった。 
柚乃は他の人が助けに行ってくれたらしく、無事連れ戻すことができたらしい。 その時、結人は彼女に言ったのだ。
『助けに行けなくてごめん。 俺は、柚乃を守ることができなかった。 これ以上、柚乃に不安な思いをさせたくない。 自分勝手でごめん。 ・・・別れよう』と。
そしてこの時、結人たちは終わった。 これ以上彼女をカラーセクトに巻き込ませたくなかったから、これでよかったと思っている。 後悔はしていない。

結人たちが別れてから数日後――――真宮から、一通のメールが届いた。 それは“藍梨が沙楽に進学する”という内容のメールだった。 
このメールを見て、結人は思ったのだ。 自分のことを知らない場所へ行きたい。 新しい地で、新たな日常生活を送りたい。 
結黄賊は解散させないけど、抗争とは無縁なところへ行きたい、と。 だから結人は、藍梨と同じ高校に入りたいと思った。 だから沙楽を受験した。 
入学して藍梨と付き合うということが決まった時、確かに結人にはまだ迷いがあった。 “またカラーセクトに藍梨が巻き込まれたらどうしよう”と。 
だが、ここは横浜ではなく立川だ。 横浜主体の赤眼虎なんていう残酷なチームなんていない。 それに藍梨も『結黄賊は続けてほしい』と言ってくれた。 
だから大丈夫だと思ったのだ。 結黄賊のことを気にせずに、藍梨と付き合える。 

そう――――思っていたのに。 

奴らがまた現れた。 赤眼虎という、結人にとって思い出したくもない過去の奴らが。 赤眼虎との抗争は、まだ終わってなんかいなかったのだ。
柚乃に関しても曖昧に振ったためか、彼女はまだ結人のことを想っていて立川にまで付いてきた。 そして――――今に至る。





数十分後 路上


―――俺は・・・これからどうしたらいいんだろう。
結人は今、そのようなことを考えながら俯き、立川という街を彷徨い歩き続けている。 柚乃にはちゃんとした返事はできず『考える時間がほしい』と言って、今日は別れた。
だが今は、柚乃よりも藍梨のことが好きなのは確かだ。 だからもう、既に答えは出ている。 藍梨とは別れず、柚乃のことを――――

「女子高生が襲われているよ!」
「こわーい。 誰か助けに行ってあげてー」
「警察を呼んだ方がいいのか?」

―――え? 
突然彼らの会話が耳に入ってきた結人はその場に足を止め、意識が朦朧としている頭を必死に回転させる。 
そして徐々に物事が整理されていくと同時に結人の背中には、つーっと冷や汗が流れ落ちた。

―――藍梨・・・?
―――ッ!
―――まさか、藍梨がレアタイに!

“女子高生が襲われている”と騒がれている方へ、全力で足を進めていく。 結人にはこの時、過去に経験した迷いなんてものはなかった。 今なら、藍梨を助けにいける。
普通ならばそんな偶然は起きないのだが、それ程結人は今追い込まれていたのだ。
―――藍梨を柚乃みたいに巻き込みたくねぇ!
―――どこなんだ! 
―――藍梨はどこに・・・ッ!

~♪ 

走っている最中に、ふいに鳴り響く結人の携帯電話。 走りながらポケットから取り出し、相手を確認する。 そしてかけてきたのが未来だと分かると、走りながら電話に出た。
『ユイ! やっと出た! 今どこにいんだよ?』
彼の声を聞きながらも、必死に藍梨の姿を捜し続ける。
「未来、藍梨が・・・! 藍梨は今、どこにいんだよ・・・ッ!」
結人は未来との会話よりも、今は藍梨のことが心配だった。 未来の質問を無視し藍梨の居場所を求めていると、電話越しにいる彼が溜め息交じりで小さく呟く。

『どこって・・・。 藍梨さんは今、俺たちと一緒にいるよ』

―――・・・え? 
その言葉を聞いた瞬間、結人の足はその場にピタリと止まった。
―――そう・・・か。
―――襲われている女子高生ってのは、藍梨のことじゃなかったんだ・・・。
彼女の無事が確認できた結人は、安堵しながらその場にしばらく立ち尽くしていた。 その時突然電話越しから、未来の声が耳に届く。
『とりあえず、今すぐ来いよ。 待っているか・・・え? ちょ、藍梨さん待っ・・・』
「?」
彼の声が徐々に小さくなっていく。 未来の身に何かあったのかと思い、彼の名を呼んでみた。
「未来・・・?」
そう口を開くと電話越しからは溜め息が聞こえ、それに続けて未来は言葉を放っていく。
『藍梨さん、今日は帰るってさ』
―――え?
「どうして・・・」
『ユイが今日忙しそうだから、迷惑をかけないようにって』
―――・・・。
―――藍梨に、迷惑をかけちまったかな・・・。
この後はどうしようかと困っていると、未来が結人の気持ちを察してくれたのか続けて言葉を発した。

『まぁ、今は藍梨さんいないけど一応ここまで来いよ。 藍梨さんと、待ち合わせだった場所にさ』


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