御子柴からユイへの想い⑬
放課後
授業が全て終わり、結人はコウと優の教室へ足を向かわせた。 今日一日、結人は御子紫と一切関わっていなかったため、彼がどんないじめを受けていたのか把握できていない。
だから今の状況を理解するために情報を教えてもらおうと、コウたちのもとへ向かったのだ。
「コウ、優。 ちょっといいか?」
二人を廊下へ呼び出した後、前置きを挟まずに早速本題を切り出した。
「今日の御子紫の様子を、教えてほしい」
その問いに二人は苦しそうな表情を見せながらも、優から静かに答えてくれた。
「今日の御子紫は、多分色々な被害を受けていたよ。 ・・・だって、日向にもたくさんいじめが仕掛けられていたから」
「あぁ。 日向の身の回りに、たくさんの嫌がらせがしてあった。 もちろん俺たちが、それを全部処理したけど」
―――そうか。
―――俺が二人にそうするよう、頼んだんだっけ。
「日向に仕掛けって、どんなことがされていたんだ?」
そう聞くと、優は思い出すような素振りを見せる。
「えっとねー、色々あったよ。 体操服が隠されていたりー、悪口が書かれた紙が机の中に入っていたりー」
―――・・・それって、他にもあるっていうことだよな。
ここであることを察した結人は、前のめりになりながら真剣な表情を彼に向ける。
「今日あったこと、順番に話してくれないか?」
それに優はますます難しい顔をし、目を瞑りながら必死に思い出そうとしていた。
「え、順番? えっとー・・・。 まずは・・・教科書に落書きがされていたでしょ。 それで、次は筆記用具が壊されていた」
―――これは・・・やっぱり。
「それでー・・・。 次に悪口が書かれた紙が机の中に入っていて、最後は体操服がなくなっていたかな」
思った通りだった。 これで日向の考えは全て理解した。 そこで結人は、あることを確信する。
―――日向に・・・勝てる。
もっと言うならば、日向にいじめを仕掛けている犯人は御子紫がされたいじめをそのまま日向にやり返していた。
ということは、日向をいじめている犯人は御子紫の味方という可能性が高い。
―――最近俺とあまり関わらなくて・・・ダチである御子紫のために動いて・・・俺の命令を聞かずに、勝手に行動しそうな奴・・・。
ここで結人の頭の中には、一人の少年の顔が思い浮かんだ。
―――そうか・・・未来・・・なのか?
結黄賊の中で唯一、結人の命令をまともに聞かない少年、関口未来。 そのような予測を立てるが、今はそんなことを考えている場合ではないと思い別のことを考え始める。
先程真宮が『今日は御子紫と一緒に帰る』と言っていた。 ということは、次のいじめを実行するのは今日ではないはずだ。 おそらく――――明日が勝負。
―――明日で、御子紫へのいじめを完全に終わらせてやる。
この件に関しては全て結人が原因だった。 自分が原因で仲間である御子紫を苦しめるなんて、簡単に許せるはずがない。
―――待っていろよ、日向。
―――・・・今まで御子紫に味わわせていた苦しみ、全てちゃんと返してやるよ。
翌日
昨日夜月が力強い言葉を与えてくれたおかげで、結人の心は少しずつだが動き始めていた。
自分に自信が持てなくなっている時に、大事な仲間が隣にいてくれるからこそ自分は変わることができる。 そして、強くなれる。
―――でも・・・俺が偽善者だということは否定しないなんて、何か夜月らしいよな。
彼に偽善者だと言われようが、結人の意志は変わらない。 結人は仲間のことを信じているため、この気持ちは簡単に動くこともない。
―――だから俺は・・・みんなのことを、信じているぜ。
今日で日向とは決着をつける。 おそらく今日一日は、放課後になるまで日向は何も動かないはずだ。
何度か1組へ足を運び御子紫の様子を見に行くが、予想していた通り彼の身には何も起きていない。 そして、何事もなく――――昼休みを迎えた。
「どうして日向の奴、今日はいじめをしないんだ? 御子紫が何も反抗してこないから、飽きちまったのかな」
「そうだったらいいけど」
昼休み、結黄賊みんなが集まる空き教室で、未来が悠斗に向かって小声で話しかける。 そして真宮と御子紫がこの教室にいない中、未来たちは何食わぬ顔でここから出ようとすると――――
「未来、悠斗」
「え? あぁ、何?」
タイミング悪く、結人から呼び止められた。
「今から二人はどこへ行くんだ?」
挙動不審な動きをする未来を見て、悠斗が冷静に答えていく。
「御子紫の様子が気になるから、1組へ行こうとしただけだよ」
だが結人の本題は二人の行方ではないらしく、すぐに違う話題を振ってきた。
「ふーん、そっか。 なぁ、二人はこういう噂を知っているか?」
「え、何々!? 噂!?」
未来が“噂”という単語を聞き瞬時に反応を見せると、結人はこっそりニヤリと笑った。 未来は噂が大好きだから、こういう話にはすぐに食い付く。
そして――――結人が噂を未来たちに話している間、日向は少しずつだが動いていた。 御子紫を呼び出し、一言だけを彼に告げる。
「今日、・・・に来い。 もちろん一人でな」
「・・・」
「絶対、誰かにチクんなよ」
そして昼休み以降も何事もなく、無事に放課後を迎えることができた。
―――さて、ここからが大変になるぞ。
結人は帰りのホームルームを終えた後、すぐに教室を飛び出し2組へと向かった。 早々に、コウたちを呼び出す。
「二人共、今日も日向を尾行してくれるよな?」
いつも通りにしていることを、念のため二人に確認した。
「もちろん!」
「任せておいて」
彼らは期待通りの返事をしてくれたため、安心する。 この調子で、優の方へ向き直った。
「あとさ、優。 もしこの後、誰かがケン・・・あッ」
「え? 何?」
途中までは言えていたが、やはり結人はその先の言葉を口にすることができなかった。 中途半端なところまで言って止めるなんて気持ち悪く思うも、彼に向かって謝罪の言葉を述べる。
「・・・悪い、やっぱり何でもねぇわ」
「え、どうして?」
「いや。 大したことじゃねぇから、気にすんな。 ・・・悪い」
本当は予め優に言っておいた方がよかったのかもしれないが、今ここで結人がそのような発言をしてしまうと彼の長所を否定するような気がして、言うことができなかったのだ。