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第12話

 
挿絵


「あれ? もう終わっちゃいました、そっち」
「とっくに、な! ちんたらしてんじゃないよ!」
マムシは怒鳴る。百を越えていたであろう小鬼の群れは、一匹残らず斬り倒されていた。

林太郎が人狼を殲滅(せんめつ)するのにそれほど(とき)を要しなかったが、同じ時間でマムシも小鬼の大群を掃滅(そうめつ)していた。

坊主と医者––––風姿風貌(すがたかたち)はいかがわしさこの上ないが、相当な手練(てだ)れである。

「だいたい、こんな小者何匹かかってこようと、俺さまにかすり傷ひとつ負わせれないから。もっと、どーんと大物出てこいつーの」
のど仏が見えるほど、呵々大笑(かかたいしょう)する。

––––と、その時、
––––ドゴゴゴゴゴゴーンッ!

大地が揺れた。
地面が大きく震え、足下の小石を()ねあげる。

地の底からどよもすような振動は、すぐに突き上げる衝撃へと変わった。

––––バキバキバキバキバキバキッ!

マムシと林太郎(りんたろう)の前にあった森が裂けた。文字通り、山の木々が左右に分かれる。
轟音をあげて(みき)がへし折れ、根が浮き上がって旋風(せんぷう)はらみ土が宙に舞う。

「フンガァァァァァァァ!」
耳をつんざき、胃の()を突き破らほどの咆哮(ほうこう)とどろかせ、それは姿を現わした。

人の身丈(みのたけ)のゆうに十倍以上もある巨人が、森をかき分け、はい出てきた。

奈良の大仏が立ちあがったような巨体。

だが、けわしいその顔と筋肉が隆起した体は、まるで仁王像のようであった。

「フンガァァァァァァァ!」
再び大音声(だいおんじょう)て叫び、眼下で刀を構えなおしているマムシと林太郎の鼓膜を容赦なくひっぱたく。

「……本当に出てくるなよ、デカブツ」
マムシは吐き捨てる。
たじろぎつつも、二刀を握る手に力を込めて巨人に斬りかからんと踏み出した、その時––––

「ほげっ!」
彼は後頭部に衝撃を受けて、(うめ)く。
つんのめるマムシ。と、その顔に向って、上空から何が勢いよく飛んできた。

「ふんがっ!」
まともに顔面で受け止めたのは、子どもほどの大きさもある熊のぬいぐるみであった。

「うらららららぁー!」
マムシの頭上高くで、少女の声が響いた。

「ショウちゃん!」
のけぞるマムシに代わって、林太郎が声の主の名を呼ぶ。

––––もし、(のぼる)がまだ意識をたもっていて、目の前の光景を見たのなら、長期治療入院もじさない覚悟で医者のもとへと向ったであろう。

それほどまでに、いままで以上に信じられない事が展開されていた。

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