第十三話
こちらは残された楡浬。大悟が消えてひたすら涙に暮れていた。
「大悟。どうして行ってしまったの。アタシはまだ大悟に言いたいことがあったのに。どこに行ったのか、手がかりもないし。」
真っ赤に腫れた目が、悲しさの重さを示している。
「楡浬殿。これをお使いくだされ。楡浬殿に涙は、無用の字。」
衣好花はおろしたての白いハンカチを楡浬に渡したが、手の覚束ない楡浬はそれを落としてしまった。ハンカチは広がって、白い布となった。
「これ、この色と形、どこかで見たことがあるわ。・・・そ、そうだわ。大悟が下女になった時に、渡したリボン。あれを大悟は髪に付けているはずだわ。それなら、こうすればいいわ!衣好花、アタシに神頼みしなさい。衣好花は神だから、これも禁じ手。大きな神痛力が発揮できると思うわ。」
「わかったでござる。では早速の字。」
衣好花は500円玉を口にした。
「神様。楡浬殿と大悟殿を合わせてくだされ!神頼の字。」
「その願い、この神が聞き遂げたわ。」
楡浬は背中から白く光って、一瞬にしてこその場から消えた。
【イタイって言うのに!】
倒れる前の大悟が耳にしていた声がそこらじゅうに響き渡った。
「ここはどこ?アタシは誰?じゃない、自我はちゃんとあるわ。この真っ白な空間ならざる場所は、ひょっとして、アタシが生まれたところ?」
「さすが、弁ちゃん、ママの愛娘だね。楡浬ちゃん。久しぶりだね、しかし。」
「お母様。ここは神宮久城ね。アタシの記憶にかすかに残ってるわ。空間の傷。それって、お母様の気持ちに傷を付けたということね。」
「そうだよ。直接的には楡浬ちゃんが知らないうちに三人寒女ちゃんたちに価値逆転を使ってしまったんだけど。その結果、三人寒女の神痛力、つまりおふくちゃんの意欲、ダイコクちゃんの体力、コトブキちゃんの情報の力が無くなってきたんだよね。その三つは神痛力を使う際の空間へのガードだったんだよね。無防備になった空間は神痛力を使うたびに空間を傷つけたんだよ。空間は、弁ちゃん、の存在そのものでもあるから。弁ちゃん、怒っちゃったってわけだよ、しかし。」