第五話
「コ、コトブキちゃん。ま、まさか。そ、そんなことしてほしいとか、あり得ないよねぇ。」
福禄寿は額から流れ出る大粒の汗を拭うこともできなかった。
「情報を知恵に転換するためには、必要なんじゃ、刺激が。いや、過激が。」
「過激って・・・想像するだに、怖すぎるよぉ。そこにあるものは分かってるんだけど。さっき見えたし。」
「いいや。チラ見ではダメなんじゃ。重要なのはガン見じゃ、ガン見。」
「えええ。目がつぶれちゃうよぉ。見たくないよぉ。あんなげぼーを見るぐらいなら死んだ方がマシだよぉ。」
「それでも構わんが、このねじ曲がった世界のままでよければな。早くせんと、火もやってくるぞ。」
「ううう。」
しばらく沈黙した福禄寿だったが、目をカッと見開き、寿老人の腹の下に視線を固定した。
「わかったよぉ。やってやるよぉ!ブルブル。」
からだを小刻みに震えさせて耐えている福禄寿。
「その意気じゃ。遺棄ゴミが感じられるぞ。」
「そんなゴミはリサイクルもできないよぉ!」
「よし、ガス抜きが終わったところで、ババで抜く、つまりババ抜きしてくれ!」
「意味が分からないよぉ!わああああ。」
福禄寿は寿老人の正面に立ち、浴衣裾を全力で釣り上げた。さっきは暗がりでよく見えなかったモノが、6K鮮明画像となった。
「ぎゃあああ!」と叫んだ寿老人。
「ぐわあああ!」と悲鳴を上げた福禄寿。
両者は地面と一体化した。
「汚物を見せられたおふくちゃんは仕方ないとして、見せつけたコトブキちゃんが倒れたのは解せないどす。」
やがてふたりは立ち上がった。
「ババたちの未来が見えたぞ。こっちじゃ!」
三人寒女はあろうことか、火柱の立つ境内に飛び込んだ。
境内の三人に火の粉が飛んできた。どんどん迫る火の勢いは止まらず。
「どうしようもないわ。アタシたちはここで、燃え盛る火のコートを着ることになるのよ。馬嫁下女にはよくお似合いのモノだけど。」
「そんな悠長なことを言ってる場合ではありませんわ!でも誰か来ますわ!助けに来てくれたのかも知れませんわ。」
「こんな猛火の中で、あり得ないわ。それこそ、火を見るよりも明らかだわ。火しか見えないし。」