第三話
一方、大悟たちは、なんの手がかりもなく、家を失ったヤドカリのごとく、うろつくばかり。また神頼み宣伝をしても今日日そんなものに縋りつく者などいるはずもなく、手持ち無沙汰になっていた。
「ポイントを上げなきゃいけませんけど、神頼みしそうな人なんて来ませんわね。」
「馬嫁下女がちゃんと働かないからよ。運動不足だわ。」
「オレは、建前上はご主人様ですけど。」
「建前は必要悪よ。必要だけど、あくまで悪なんだから、いつか正義に倒されるの。ザコ怪人として1コマしか映像に出ない馬嫁下女の姿がアタシの目の飛蚊症になるわ。」
「ひぶんしょう?それはいったいなんですの?」
「馬嫁下女みたいに心がど近眼の人の目の汚れとかが、飛んでいる蚊のように見えたりする病気よ。」
「楡浬様。さっきから、明後日の方向ばかり見てらっしゃいますが、そこにおいしいものでもありまして?」
「あるわけないわよ。明後日という未来は黒いキャンバス。何を描いても、どんなに下手でも、ヘタレでも、すべてを隠してしまう禁忌キッズグッズなのよ。」
「一部のオールドファンに怒られますわ。ヘタレは詳らかにしないといけませんわって、そういう問題ではありません。ちゃんとやるべきことをおやりなさい。その陸屋根を百年保証住宅登録しますわよ。」
「ちょっと何よ。馬嫁下女だって何もできてないくせに。アタシだけを責めるって、どういうことよ。アタシだって、こんな境遇をいいだなんて、思ってないんだからねっ。グスン、グスン。」
楡浬の可憐な頬に透明なラインが幾本も走り、縁日の電球の暗い光に乱反射する。
そんな楡浬を見て、大悟は楡浬の肩に手を当てた。楡浬はそのまま大悟の胸にしがみついた。
「バカ、バカ、バカ!」
大悟は楡浬にかける言葉が見つからず、楡浬の背中を強く抱きしめるだけだった。
大悟と楡浬が抱き合っているのを見て、衣好花顔が闇の色に染まっていく。
「そういうことは拙者がしたいのに。神を差し置いて、とは不届きでござる!」
衣好花は10円を咥えて、手裏剣を振り回して空を切った。
【イタイ!】
どこからか、甲高い声が聞こえた。すると、火花が散って、露店のテントに飛び火した。防火構造からははるかに遠い布切れはあっという間に赤く燃え盛り、祭り客に悲鳴を上げさせた。蜘蛛の子を散らすように逃げ去る客たちを見て、楡浬は大悟を突き放して狼狽する。
大悟は冷静に逃げ道を探した。狭い境内であり、答えはひとつしかない。道路側である。
「あっちですわ!急ぎますわよ!」
阿鼻叫喚に近い中でも大悟の大きな声は楡浬に届いた。