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第三十七話

風呂からあがり、十畳の広間に浴衣姿でいる三人。大悟が用意したものであった。

「先生、超ありがとう。えすか、一度こういうのを着てみたかったんだァ。願就の字~。」
衣好花は袖を伸ばしたり、腰の帯を振り返って見たりとはしゃいでいる。

「泥ドロンジョはお気楽ねえ。本当に幽霊がいたんだから。この目にしっかり焼き付いているわ。」

「楡浬様の生まれたままの姿が、オレの目に貼り付けされたままですわ。」

「その画像はすぐに完全消去してしまいなさいよ。さもないと、アタマごと、破壊するわよ。」

「またそんな無粋なことを。楡浬様はもっとおしとやかにならないといけませんわ。」

「ほっといてよ。神様にはそんなスキルは必要ないんだから。馬嫁下女はちょっと前まで男の子だったのに、アタシよりよっぽど女の子してるじゃない。」

「郷にいれば郷に従えですわ。男女逆転状態がいいわけではありませんが、それを嘆いて落ち込むのは愚の骨頂。オレは楡浬様が早くポイントを貯めて、カードグレードを上げるのを気長に待ちますわ。ところで、寝室はどうなさいますの?」
楡浬の表情がサーッと曇り空に変わった。

「ゆ、幽霊がアタシのポイント稼ぎの邪魔をするかもしれないわ。馬嫁下女はそれを防止するのが役割なんだから。アタシと一緒の部屋で寝られるという大特典サービスをあげても構わないわ。こんなチャンス、二度とないんだから、感謝しなさいよねっ。」

「やったァ!修学旅行部屋だァ!三人で、川寝の字~。」
テンションアゲアゲとなる衣好花を見て、大悟と楡浬は悪い気はしなかった。

「それにしても、神様が幽霊をこわがるとか、変ですわ。幽霊がいるなんて信じてませんけど、神様なら人間界だけでなく、幽霊界も支配しているのではありませんこと?」

「こ、こわくないって言ってるでしょ。死後の世界はアタシたちの管轄外なだけよ。」

「幽霊って存在するのですの?」

「し、知らないわよ。もう寝るわよ。」
こうして、左から、衣好花、楡浬、大悟という順番で布団を並べた。

「あら。楡浬様。真ん中だと、オレの隣になってしまいますが、それでよろしくて?」

「べ、別に並び方なんて、どうでもいいじゃない。アタシは、たまたま真ん中が好きなだけ。アタシは神様なんだから、この三人世界の中心に座するのは当然よ。世界の中心で悪意を叫んだりなんかしないんだからね。」
「はいはい。こわいんですのね。」

「違うわよ!馬嫁下女に何か言ってよ、泥ドロンジョ。」
楡浬はすでに布団に潜り込んでいる衣好花に声をかけた。

「拙者は痴話には参加しないでござる。沈黙の字。」

「衣好花様。浴衣を脱いでの、その格好。浴衣がお気に召しませんの?先ほどは喜んでおられたように見えましたが。」

「滅相もありませぬ。忍者は就寝時も常在戦場。いつ何時、敵の襲撃を受けるかも知れず、寝る時はこの忍者用寝間着を使うのでござる。常用の字。」
布団をめくって、半身を晒した衣好花。フード付きの牛の着ぐるみ姿である。フードを被っているので、忍者モードになっている。

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