ロヴェル道中②
森を抜けて、小さな木の下に馬を駐める。
テント代わりに使うシートを草の上に敷き、準備した器具と食材を手早く広げる。
事前に作り置きしておいた馬の食料を隣に置く。
ガツガツと勢いよく食べていく馬を片目に、自分の分を作っていく。
「おいしい?」
「……」
馬は少し首を振るだけで、食料にがっついている。
「そう」
オイルバーナーに火をつけ、小さなフライパンをその上に置き、肉を焼く。この肉はルロという動物の肉で、脂が適度にのっている安い肉だ。
あの街ではよく食べられており、どれだけあの街の空気が嫌でも、このルロ肉だけは手放せない。
ジュー……と音を立て、芳ばしい香りを周囲に漂わせ始めたぐらいで火を止める。
棒状のパンを切り出し、その上に乗せる。
「……いただきます」
固かったパンはルロ肉から溢れ出た脂で所々柔らかくなっていた。
最初に肉の弾力が歯に伝わり、その後にパンのサクサク感が伝わる。
そして、溢れ出た肉汁は口の内側をコーティングしていく。まぁ、コーティングされても美肌になったりするような効果はないが……。
日は昇ったばかり。小さな木と僕と馬の影は森の方へ長く伸びている。
陽の方向には目的地ロヴェルがあるが、もちろんまだ見えない。見えているのは、だだっ広い草原と抜けてきた森。
背中を預けている、この小さな木と同じような木が所々生えているが、人も小屋もない。
寂しい、なんていう感情はない。
いや……少しはあるが、昔から取り残されたような生活をしている僕には生易しいもんだ。
パンと肉を胃に流し込み、最後にグビッと水を飲む。
近くに川がないため、食器を洗うことはできない。仕方なく小さなタオルで拭き取る。
そして、綺麗にした食器をまとめ、袋に入れ、馬にかける。
「……バフッ」
「うん、出発だね」
手を思いっきり伸ばし、足をかけ、馬の背に跨る。
「……ゴッ!」
合図を出し、馬を走らせる。
最初こそスピードは遅かったが、太陽が段々と昇っていくにつれ、速くなる。
僕の短い髪も、馬の毛も、風を切るたびに靡く。
馬にかけた道具もカランカランと音を鳴らし、上下左右に自由に揺れる。
「そういえば、ロヴェルって『陽の街』って呼ばれてたね」
先の旅人が言っていた。あの詩のような言葉を残した旅人ではない。
それよりほんの少し前に会った若い旅人だ。
□■□■□■□
『君も旅かい?』
「うん、ほんの少し前に始まったんだ」
『旅は初めてかい?』
「あー……家出も旅に含まれるなら、2回目かな」
『ハハハ、家出は立派な旅だよ。どこへ?』
「ロヴェル」
『奇遇だな。俺はロヴェルからコッチに来たんだ。……あそこはいい所だよ、ホントに』
「僕も期待してるよ」
『おう、期待しとけ。ロヴェルは陽の街だからな』
「陽の……街?」
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結局、旅人は僕の疑問に答えることなく行ってしまった。
そして、ほんの少しその場所から離れると背後から悲鳴が聞こえたんだ。
悲鳴だったから、彼かどうかは分からない。
だけど、あの場には彼と僕以外にはいなかった。
きっと、彼は殺された。
そう、これがあの街と、あの街の周辺での常識だ。
飢えた狼という名の盗賊に目を付けられれば、もう人生は終わったも同然。
最期は無残な姿で迎える。
なぜか怖いと思わなかった。あの街での生活は僕の感覚を壊してしまったのかもしれない。
そんな事を思い出しながら、僕と馬はドンドン風を切っていく。
そして、太陽がちょうど真上に来る頃には小さな村に辿り着いた。
ロヴェルまでは、あと3刻。
半日の半分の半分。
たったそれだけだ。