第三十五話
「やっぱり、男が一緒だと思うとすごく嫌なんだけど。」
「もう夜なのです。この山の名前をお忘れではありませんか。それでもよろしければ、オレは男湯に入ることにしますわ。」
「ア、アタシをゆすろうって言うの?やり方が汚いわ。」
「オレはどちらでもいいですわ。ただ、楡浬様が衣好花様と二人だけで、いかもお風呂という最も無防備ステータスな時に、何かが出てもいいならそれでも構いませんが。ほほほ。」
「な、なに不気味な笑い声出してるのよ。べ、別にこわくなんかないんだからねっ。・・・で、でも泥ドロンジョだけでは・・・。」
結局3人で一緒に女湯に入ることになったが、バスタオルという脆弱な橋頭保を設置した状態での入浴となった。
「いいお湯ですわ。温泉なんて久しぶりですわ。空気が澄んでいるので、星がすごくきれいで、近くに見えますわ。」
「本当だねェ。えすかは、今超幸せだよォ。アイドルにもすぐになれるような気がするゥ。望接の字~。」
「この温泉がいいことは認めてあげるけど、このタオルが邪魔になってるわね。余計な人物がいなければ最高なんだけど。それに、タオルのリオカーニバル的盛り上がりを見せつけているのもひどく気分を害するわね。」
楡浬は目を大きく見開いて、水面に浮かぶ二つの島をにらんでいる。
「そんなにお腹立ちされると、お肌によくないですわよ。」
「うるさいわね。馬嫁下女は、こんな状況で、恥ずかしいとか思ったりしないの?それが少年アニメではお約束じゃないの?」
「たしかに、普通はそうですし、こんな姿になる前なら、絶対無理だったはずなのですが。婦女子の入浴姿を恥ずかしいと感じる中枢神経が稼働しないのですわ。この前まではそうでもなかったのに、奇妙ですわ。」
「馬嫁下女はつくづくヘンタイになってるわね。アタシのような美少女がこんな姿でそばにいたら、鼻腔内大出血してもおかしくないのに。」
結局、大悟は楡浬の要求により、岩陰に行って、楡浬たちからは姿が見えない場所での入浴となった。
「楡浬チャン。せっかくの温泉なんだからァ、もっと楽しもうよォ。楡浬チャンの肌、超つゆつゆしてるゥ。滑肌の字~。」
「それを言うならツヤツヤじゃないの?」
「いやいや、えすかの浅黒い泥泥肌からすると、おつゆみたいだからァ。透過の字~。」
「泥ドロンジョも溶解モードでなければキレイな肌してるわよ。」
「楡浬チャン、いやだァ。そんなこと、言われたことなくない?初聞の字~。」
「月明かりの景色もいいし、来て良かったわね。ほら、そこの岩の上で月見している女の子がいるわよ。・・・。」
楡浬が岩に向けた視線は、瞬時にフリーズした。