第二十一話
大悟と楡浬はほとんど会話なく帰宅した。
「オヨメ姉ちゃん。お帰り~。抱き、抱き、抱き!」
「あはん。」
「オヨメ姉ちゃん。リアクション、こんな感じだったっけ。ぼよよんといういつもの感触だけど、新境地とも思えるよ。これはこれで、おいしいよ。」
「そ、そうですわね。自分でもよくわかりませんわ。」
桃羅はいつものように、キッチンで夕食の準備をしている。鼻歌が聞こえていることから、機嫌は上々模様である。
まな板に向かう桃羅の手が暗くなった。桃羅が振り返ると、そこには大悟がいた。
「オヨメ姉ちゃん。いったいどうした風の吹き回し?モモの背中にセクシーを感じちゃったのかな?」
「いや。気づいたら、ここにいたんですわ。自分でもよくわかりません。トントントン。」
「オヨメ姉ちゃん。すごい!大根がちゃんと切れているよ。」
大悟は決して悪くない動きで、大根を捌いている。大悟のエプロンには『淑女中』と書かれている。
「夫婦初めての共同作業だよ。いつか来ると思ってたけど、こんなに早く実現できるなんて、夢みたいだよ。」
新婚夫婦のような二人を見ている楡浬。テーブルに座っているが、その膝はひどい貧乏ゆすりで、テーブルは震度6のような揺れを起こしていた。
『食用油が切れたから買ってきて。』という桃羅の指示で買い物へ行く大悟。普段から追加買い物は大悟の担当であったが、今日はいつもにもまして、積極的に引き受け状態の大悟。
商店街を歩くと、ひときわ目をひく。『あんな美人、この街にいたかしら?』人々の反応は一律にこうであった。そんな大悟の10メートル後ろを正確にフォローする楡浬の姿があった。
桃羅からは『くれぐれもストーカーするんじゃないよ』と言われていて、それを受け入れた楡浬であったが、部屋にいると、大悟のことばかり考えてしまう。
「馬嫁下女が行くんだからご主人様がついていくのは当たり前よ。部下を大局的見地から局部を見ることが部下育成に大切なのよ。」
プライバシー侵害の正当化を堂々と宣言しながら、大悟の買い物についていく楡浬。
「桃羅が言ってたのはこれですわ。ゼロカロリー食用油、脂肪分もゼロ。そんな油ってアリか?」
素朴な疑問を持ちつつもレジで、お金を払う大悟。それを見ていた楡浬は驚愕の目で大悟を見ている。