第十九話
「たしかに、アイドルになりたい女子は、フツー、目立ちたがり屋で、フードで顔を隠したりしないだろう。」
「そ、そうでござるか?この頬かむりは忍者の象徴。イスラム教徒と同じく、安易に他人に顔を晒してはならぬとの掟でござる。禁則の字。」
「イスラム教徒に怒られますわ。アイドルが顔を見せないんじゃ、話になりませんわ。アイドルは世の人々に笑顔を見せて、幸せを振りまくのが役割です。そんな引きこもりのようなやり方では人の心を冬眠させてしまいますわ。フードをお取りなさい。」
「さ、さようでござるか。しかし、これを取るといろいろとまずいことになりそうでござる。希望的極力、回避の字。」
「何もったい付けてるのよ。アイドルになろうとか言ってる娘が恥ずかしがったらダメよ。」
「でもこれを被るのが我が家の、伝統の字。」
「よいではないか、よいではないか。ひひひ。」
「楡浬様。人格、いや神格が変わってらっしゃいますわ。」
「そんなことないわ。アタシはただこの子を、なんてったってアイドルにしたいだけなのよ。ひひひ。」
「最後の3文字で、真っ直ぐな自己主張がクセ球に変わりましたわ。」
「ほらほら脱げ脱げ脱げ~。これも衣好花のためなのよ。情けは人のためになるのよ。ひひひ。」
完全にセクハラおやじ属性を獲得した楡浬。自分願望の押し売り業者を標榜中。
「アイドルになるのは拙者の宿命。仕方ないでござる。ご先祖様、これから行う不埒をどうかお許しあれ。開帳の字。」
衣好花はフードの先端に手を入れて、あっさりと脱いだ。
「うおお~。こ、これは半端ないレベルですわ!」
オレンジの髪は背中までかかるストレートのセミロング、アイラインのくっきりした瞳はひときわ目立ち、通った鼻筋とやや小振りの口元はしっかりと自己主張している。小さな頭には大きな赤いリボンを冠した典型的美少女である。
「ちょっと、これは反則じゃないの。見せたいものを隠して、いいところで一気に晒す。ヒーローをよりよく見せるための演出だわ。」
「オレの好み、真ん中高めのストレートですわ!」
「何よ、その性飢餓状態的青少年反応は!女のくせに。罰当たりは『天誅で黒轢死するのよ!』、どか~ん!」
「そのネーミング、すごくイタイですわ!ぐおおお~。」
楡浬は御幣バットを全力スイングして大悟を打った。大悟は絶叫しながら夕暮れで赤くなった空に見事に溶け込んだ。