弟子の大好きな茶はトルコチャイ
迷宮あるところに、ギルド支部あり。それはどこの国でも同じ事。
マスターは嬉々としてギルドカウンターにいた。
「ただいま、受付を中止しておりまして」
「中止? 出来るわけがないでしょう。何せ、ポーションの材料採取ですよ?」
「し……しかし……」
「それにですね、私は大暴走前から依頼していたものもあるのですよ」
「そ……そちらもキャンセル扱いに……」
マニュアル通りに言うものではない。それに、マニュアルに沿うなら、ポーションの材料採取は|何があっても《、、、、、、》キャンセル扱いにならない。それを知っているマスターが、わざと苦情を申し立てているだけのことだ。
「分かりました。では、薬草なしのため私もポーションを売る薬局へ同じことを伝えます。よろしいですね?」
「え?」
「当り前でしょう。材料がなくて、どのようにして作るというのですか。無知も大概になさい」
「で、でもあなたは、マジッ……」
「今の職員はマナーもなっていないようですね。職員|しか《、、》見れない情報を、こんな公衆面前で言うとは」
「しかしっ、あなたなら!!」
マスターが対応していた職員の失言を取り上げた直後、別の職員に切り替わった。
「事実ですよ。それに、ものには限度というものがあるのですよ」
「え?」
「無い袖は振れない、そういうことです」
まったく、ギルド職員の質も落ちたものですね、そう言うなり、マスターはカウンターから離れた。
ほっとしたのは、カウンター業務の職員だけではない。マスターの薬師としての実力は古株ほど知っている。それに、薬師として、探求者としてのネットワークも。
つまり、マスターに見放され、ポーションの納品拒否を他の薬師たちにもされると痛いのは、ギルド側なのだ。
「あ、今の会話は、知り合いの薬師にも伝えておきますので」
がったん! 古株が慌てて立ち上がった。
「……そうなる前にやっておくべきでしょうねぇ」
そう呟くマスターには、別件で文句をつけている弟子の姿が映った。
そんな弟子を慰めるべく、吽形に頼んで茶葉を出してもらう。
こってりと砂糖を入れて飲む、トルコのチャイ用茶葉だ。
トルコの紅茶、リゼ・ティーことトルコチャイは淹れ方が独特だ。
だが、三十分以上蒸らしても渋みが出ないのが特徴であり、濃くいれることが多いため、砂糖が必要となる。
弟子が好むため、チャイダンルックを購入したのは懐かしい思い出だ。
ギルド奥にある、探求者用簡易キッチンを借りて、茶の用意をする。
「甘い茶が飲める」と分かれば、弟子は間違いなくこちらに来るはずだ。
そして、予想よりも早く、弟子がパーティメンバーを連れて簡易キッチンへやって来た。