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やってきたのは、未就学児と思える少女だった。
「あの、ここに、ママがのんでもだいじょうぶな、おちゃはありますか」
何かしらの制限で茶が飲めないのなら、マスターとて茶を出しにくい。
「ママはどうしたのですか、|白岡《しらおか》家のお嬢様」
やってきた少女が誰なのか、気づいたのは朔だった。
「あなたは?」
「申し遅れました。私は|鷹司《たかつかさ》家の使用人頭をやっております、朔と申します」
「さく、さん」
「朔。とお呼びください、お嬢様」
片膝をつけてしゃがみ込み、少女と視線を合わせながら、朔が言う。子供を安心させるためなのか、はたまた他に理由があるのか謎だが。
「朔君、お知り合いですか?」
「えぇ。旦那様がたと家族ぐるみでお付き合いのあるお家です」
そのお嬢様と話をしつつ、片手は別の動きをしている。間違いなく、どこかと連絡を取っているはずだ。
「|莉奈《りな》お嬢様!!」
「莉奈ッ!!」
慌てて店に入ってきた黒服集団とうら若き女性を見たマスターはため息をついた。数人|元《、》同業者がいる。だったらどうして子供一人見ていられない。そう言いたくなるのを堪えた。
「マスター、失礼しやした!」
「その言葉遣い!!」
マスターに頭を下げた|元《、》同業者に、少女の名前を呼んだ男がすぐさま注意していた。男が正しいので、マスターは苦笑するだけである。
「君の仕事は、護衛かな? それとも?」
「護衛っす。と言っても、車運転の方っすけど」
富士樹海迷宮の大暴走で後遺症を残した、元同業者。車の運転に差し支えはないらしい。
「だから、その言葉遣い!!」
「私には差し支えありませんよ。|元《、》同業者ですので。それよりも、彼女に付けていた護衛に問題はないのですか?」
「大ありです。お嬢様を見失った挙句、私どもに連絡を入れないというのは」
そちらを再教育するのは、マスターの仕事ではない。そして、どうしてこの少女が、この店に入ってきたのか。
「閑古鳥も鳴いております時間ですので、一息入れていかれては? お茶専門店ですが」
「でも……」
「フレッシュジュースと炭酸飲料ならご用意が出来ますよ」
その言葉で、莉奈があっさりと陥落した。