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 ここはお茶専門店「茶店」。国際ランクの探求者であるマスターの経営する、小さな店。

 ここには日本各地と言わず、世界から茶を求めてやってくる人たちがいる。そんな人たちの話を聞いたりしながらその人にあったお茶を出していく。

 そして今日も、風変わりな客と常連客がやって来るのだ。




「おや、|朔《さく》君いらっしゃいませ」
 本日一番に訪れたのは、マスターから見て|継子《、、》にあたる男だった。年のほどは、マスターとほとんど変わりがないように見える。

 それもそのはず。マスターとその妻は二十以上離れており、マスターと結婚した時、朔の歳はマスターの三つ下だった。
「旦那様と奥様用にね、いつものお茶を三種類ほど。それから、客用に一種」
「かしこまりました。配分はいかほど?」
「変わらず、かな。あ、一つだけ少し量を増やして。坊ちゃまがお帰りになるから」
「かしこまりました。二種が二十五グラム、お客様用ともう一種を五十グラムずつでよろしいですか?」
「……それだけで悟るのは、マスターくらいだよ」
「お褒めいただき、光栄でございます。それから、|坊ちゃま《、、、、》がいらっしゃるということは……」
「間違いなく、若奥様と一緒にここに来るね」
「準備しておきましょう」
 朔の職業は「使用人頭」。今時分の言葉で言うなら「執事長」にあたる。今でも朔が使用人頭という言葉を使い続けるのにもわけはあるのだが。

「お時間は?」
「今日は久しぶりの休みだからね。ゆっくりしていっていいかな」
「構いませんよ。弟子が来ても揶揄わないように」
 そう言って、マスターは朔が好むティソーダを目の前に置いた。
「あはは、ありがと。それから、善処するよ。彼、揶揄うと楽しいんだもの」
 仕事先ではきちっとした言葉遣いを心がける朔だが、マスターや弟子の前ではかなり砕けている。
「……妻に懐いておりましたからねぇ」
「まぁ……ね。私たちが子供を母に見せなかったから、母にとって孫みたいなものだっただろうしね」
 朔が小さいときに離婚したという、マスターの亡き妻は、竹を割っているほうが可愛らしい性格をしていた。いい意味でも悪い意味でも豪快で、それでいて繊細な人だった。
「私もさぁ、本当のこと言うと母についていきたかったんだよねぇぇぇ」
「|翠《すい》ちゃんと同じことを言わないように。それからいつまでもうじうじと言っていますと、妻が夢枕で説教しますよ」
 翠とは朔の妹で、マスターの十歳下の女性だ。こちらは|菓子職人《パティシエール》になっており、毎年紅茶の日にジャムを仕入れている。
「いいねぇ、それ。夢枕で説教されてもいいから、もう一度母に会いたいな。……もうすぐ私も母の歳を超すし」
「そんなことを言っていると、絶対来ませんね」
「あり得る――。さすがマスター、母のことを熟知しているよ」
「朔君たちにそう言ってもらえると嬉しいですねぇ。あ、昨日翠ちゃんが来てくれたので、スコーンとジャム、それから簡単に摘まめる菓子があるのですが」
 その言葉に、朔が食らいついた。すぐさま吽形を呼び、時間をとめていた菓子とスコーンを出していく。
「あいつ、また腕上げたな」
 品評をしながら食べていく朔に、今度はポットごとダージリンティを出した。こうやって、|茶店《ここ》を通じて繋がっている兄妹なのだから。
「今回の翠メニューにはダージリン、と。奥様が喜びそうだからあとで寄っていこう」
 それを聞きつつ、マスターはにこりと笑った。


 そんな最中、からんからんとベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」
 マスターは新規客へ笑顔を向けた。


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マスターの妻、前夫との子。

|朔《さく》……男。マスターの三つ下。現在はとあるお屋敷にて執事長となっている。かなり有能なうえ、実はシスコン、マザコン気味。一応妻子あり。雇い主、妻子ともに茶店の常連。特に雇い主は茶葉の仕入れ先を変えるほど。

|羚《れい》……男。マスターの五つ下。朔とは別の家で執事を務めている。その家の執事長は実父(つまり、マスターの妻、前夫)。朔たちとはあまり仲が良くない。こちらも妻子持ち。

|翠《すい》……女。マスターの十歳下。|菓子職人《パティシエール》。実父は侍女にしたかったようだが、反発。現在も独身を貫く女傑。朔同様に常連であり、茶葉を使った菓子を作る際には、必ず茶葉を注文する。また、紅茶の日には毎回ジャムを納品している。

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