第十四話
ゆっくりと大悟の席に歩き、机の右横に立った楡浬。ソッポを向いてはいるが、左手の小指をクイクイとビミョーに動かして、大悟に馬姿勢をとるように促している。大悟は指の動きをつぶさに見て、眉間にシワを寄せたまま、腕組みしている
「すぐに椅子になりなさいよ。このアタシが座ってあげるんだから感謝しなさいよね。」
大悟は立ち上がって中腰になろうとしたが、そこで動きが停止した。
「本当にこの上に座るのか?他の神様は女子同士だからいいけど、男女の組み合わせだぞ。」
「ア、アタシだって、あんなみたいなゴミムシの上にからだを預けるなんていやだわ。で、でもこれがキマリなんだろうから、仕方ないでしょ。さっさと小汚い椅子に擬態しなさいよ。」
「汚れ椅子で悪かったな。あんたがいいなら遠慮しないぞ。ほら腰を乗せろよ。」
大悟は椅子の姿勢で、楡浬を手招きしている。楡浬は初めてゴーヤを口に入れた子供のように、苦虫を噛み潰したような表情で腰を落とした。
「いい座り心地。柔らかな感触に適度な硬さが混じってる。程よい体温を感じる。ああ、生き返るよ。」
大悟は眇めた目を座主の後頭部に向けた。
「おい、桃羅。教壇に戻れよ。」
「あっ、お兄ちゃん、ごめんなさい。間違っちゃった。ちょうど足が疲れたところに公園のベンチがあったので。てへっ。」
「オレは誰が座ってるかもわからないバイキンまみれのベンチなんかじゃねえ!それに重い。苦しい。」
「レディに対して失礼な物言いだわ。」「いくらお兄ちゃんでも言ってはならないことがあるよ。」
桃羅と楡浬は一緒に座っている。女子とは言え、ふたり分の重量を支える罰ゲームは厳しい。
「どうしてオレが責められるんだ?理不尽だ。」
大悟の言葉をスルーして、教師桃羅と楡浬は火花を散らし合っている。
「どきなさいよ。そこは玉座なんだからねっ。」
「なに言ってるんだよ。お兄ちゃんを土台にして、のし上がるのが妹の務めなんだよ。」
「そんな務めは国際標準職業分類にも入らないぞ!」
結局、桃羅と楡浬は大悟椅子を半分ずつシェアした状態で、動かなかった。
「じゃあ授業はこのまま開始するよ。」
「こんなことでいいのかよ。他の生徒が迷惑するだろう。」
「別にいいよ。モモはどこまでもお兄ちゃんひとりのための教師なんだから。」
「それじゃ、まるで家庭教師じゃないか。」
「学校内家庭教師プレイだから問題ないよ。」
「名前からして危なすぎるぞ!」
こうして、教室の最後尾に座する教師による授業が開始された。
(教師桃羅+楡浬)/大悟という割り算陣形は終日キープされた。それは大悟の全身筋肉を尿酸という悪魔の泉にどっぷり漬けさせていた。