第十一話
五百円玉をぐしゃぐしゃに噛んでいた福禄寿は神集団の後ろで戦況をつまらならそうに眺めていた。その横に大黒天と寿老人が腰に手を当てて立っていた。
「あら、お賽銭吞み込んじゃった。おふくたちの出番がまったくなかったのに、もったいないなぁ。まあ出演なしは、いつものことだけど。」
【イタイ、イタイ!】どこか遠くで聞こえる奇妙な音。しかし、バトルの中でかき消されていた。
こうして、神たちが魔冥途の方に集団で向かうと、魔冥途たちは一斉に凧に乗って、空のどこかへ姿をくらました。
神たちは、時折やってくる魔冥途を追い払うことで、人間界を支えているのである。いわば用心棒的存在であり、その代償として、人間は神からの過酷な扱いを甘んじて受けているのである。またお賽銭が神痛力の源泉ということもあり、部分的には持ちつ持たれつの関係もないわけではない。とにかく、軍事力が世界を支配するのは、世の常である。
福禄寿は教師桃羅を一瞥して、背中を向けた。
「さて、先生。わかってるよね、お約束ぅ。」
「そうね。あの汚い字のゲロ、いやゲルに行けばいいんでしょ。」
「ゲロじゃないし、ゲルでもないよぉ。テントだよ、テントぉ!」
「おふくちゃん。テントがどうかしたんどす?」
「いや、なんでもないから、ダイコクちゃんは自分のテントに戻ったらぁ。いや、もう体育の時間は終了したから、教室に戻りなよ。早く、早くぅ。」
「なんか、怪しいどす。ウチの『浮気スカウター』がピンポン鳴ってるどす。」
大黒天は右目にアンテナ付きの半透明のレンズを装着して、福禄寿をリサーチしている。
「ちょっと、ダイコクちゃん。そんな前近代的な兵器を取り出して何してるんだよぉ。それは人類とサルのキメラのサイヤ人とかいうのが作った能力測定機じゃないぃ。それはいろんなデータが計測できるように神が改良したんだけど、女子のスリーサイズとかも瞬時に判明するから、製造禁止になったはずなんだけどぉ。しかも、浮気スカウターとか、反則もいいとこだよぉ。」
「おふくちゃん。ウチを甘くみてはいかんどす。ウチはおふくちゃんにパンツを見られるのは恥ずかしくて嫌どすけど、おふくちゃんがほかの女子のパンツを見ることはもっと嫌いなんどす。だから、ほかのパンツを見ないように、こうして警戒網を敷いているんどす。」
「もう、ダイコクちゃんったら、あまり縛ったらおふくの広い心も狭くなって、泳ぐ場所を失っちゃうよぉ。そうなった、大変だよ、ヘンタイだよぉ。」
「おふくちゃんがヘンタイ?それは初めからそうじゃないかどす。」
「ひっど~いぃ!許さないよぉ!」
福禄寿は腕を振った。袖から現れた盛り上がった筋肉は、少し離れたところにいた教師桃羅を強烈にはたいてしまった。
「ありゃ?そうだ、さっきお賽銭を食べたことを忘れてたよぉ。やっちゃったぁ。賞味期限が来てない馬を使えなくしちゃったよぉ。あっ、いちおう先生だから馬じゃなかったねぇ。あははは。」
福禄寿に打たれた教師桃羅は校舎の壁にぶち当たり、肉体は赤い無数の破片となり、辺りに散乱した。
それを黙って見ていた大悟は絶叫して、頭を抱えた。