連邦の弱点
さて、すこしコレを見ている君達の世界の話をしよう。
皆は、通信は常に繋がる時代に生きている事だろう。手のひらのサイズの小さな端末で、自分の言葉を、絵を文字を簡単に誰か、あるいは全ての人に届けられるはずだ。
だからこそ忘れている。
━━━━遠くの人間に自分たちの声を即座に届けると言うことが、
死を伴うほど大変であり、決して完璧には出来ないと言うことを。
キリエイ連邦軍の前線簡易指揮所のテントは、もう一つの戦場だった。
「第455歩兵小隊全機!!応答を!!
第228通信小隊!そこから第455歩兵小隊は見えるか!?」
「もう一度!え?そちらが第455歩兵小隊!?
門弟通信伍長!!伝令が逆になっています!!」
「了解!つまり西側の全滅は第889デサンド小隊か!!
西側の通信小隊で一番近くの電話兵は誰だ!!」
聖キリエイ連邦は、宗教国家であるがゆえに、異教徒の優れた技術を導入するのに宗教裁判が開かれてしまう構造上の欠点がある。
故に、この森で乱れた魔力の場のせいで魔力通信機が使えない場合でも通信ができる、電磁波と呼ばれる電気の波を利用した通信機が、いまだに使えなかった。
長くなったが要するに、魔力通信機が使えない場合は、電話線をわざわざ歩兵が背負って引っ張っていくのである。
だがそれ以前は伝令のたびに馬かクリスタリオンを走らせる始末だ、これでもはるかにマシである。
だが、神の名の下に行われる聖戦の為集められた門弟たる兵士たちの物量でも、
今この瞬間、それは致命的な弱点だった。
「…………司祭将校閣下、今から一つ失言をお許しください。
中央の枢機卿のクソ共は何をやっているんだ!」
青筋を浮かべて、指揮官が苛立ちのままに言葉を選ぶ。
「……門弟大尉、今の言葉やこの話題は、全て神への懺悔として全て受け止めよう。
私も門弟がこんな異教徒の森で死ぬのは忍びない。
だから私も言おう。
教皇様、私が悪魔に惑わされて貴方を殺しに行かないうちに!
どうか異教徒の技術でもいいので導入を!
これほど近くにいて!!
何も分からないとは何事ですかと!!」
司祭将校とは本来、神の教えが皆正しく守られているかどうか━━━より具体的に言えば枢機卿や教皇達の意向が守られているかどうか━━━を監視する立場である。
それがこんな事を言う程とは…………
「状況は、門弟通信兵達!!戦場の把握が出来ないことの意味は分かるはずだ!!」
「門弟指揮官大尉殿!とりあえずわかる範囲で報告します!
聞いていたかとは思いますが、異教徒どもに門弟第889デサンド小隊が壊滅させられました!!
自爆した際に漏れていた推進剤に引火した模様!」
「自爆とは野蛮な!!異教徒め、元々天国には行けぬ身とはいえ……!」
「その掟破りの恥知らずが強さの秘密でしょうとも!
他はどうだ!?」
「報告!近くにいた第072ヘヴィネス級中隊のエクシアロンによれば、爆発のあった地域は完全に壊滅!それ以外に緊急事態の照明弾なしとの事です!」
「今殆どの歩兵小隊からの報告が上がりました!
敵は壊滅!あの爆発以外で損害なしだそうです!」
ふぅ、と大尉と司祭将校が安堵のため息を漏らす。
「……残りの門弟達には、周辺を警戒しつつも帰投を命じる。集合ののち弾薬を補給して早くこの森を抜けるぞ!」
「了解!」
ここから、また長い連絡と言う名の戦いが始まる。
電話は常に鳴り響き、何処からかかるかを仕分けしつつ、指示を飛ばしていく。