第十七話 幻術
僕の目の前には街が広がっていた。
ルイの反応を追って、更にもう一日程歩いていたらたどり着いたのだ。
魔族しかいない地下空間に街があることは驚きだ。
物を流通させることなども大変だろうし、偏見かもしれないが魔族は人間に比べて数が少ない。
因みにここまでに数人とすれ違ったが、その全てが魔族だった。
ようやく見えていた街にたどり着く。
そこは意外にも綺麗で、治安も悪くはなさそうだった。
それは恐らく「魔王忠誠」のスキルによる「魔王」の統率のお陰なので何ともいえないが……。
体力を使う旅で寝床は悪い、飯は不味いだと気が滅入ってしまうので、今日くらいは美味しい飯を食べ、ふかふかのベッドで寝たい。
そんなことを考えながら街を歩いているときだった。
「おい、余所モンが何やってんだ?」
「物か体差し出したら許してやるよ」
如何にもチンピラって感じの奴らが絡んでくる。
治安は良さそうだったが、どこにでもこの手のチンピラは湧くらしい。
しかし丁度良い、金がないと思っていたところだ。
悪者退治できて、しかも金が得られるのなら一石二鳥だ。
僕は敵のホームで暴れるのはあまり良くないと判断し、路地裏まで逃げる。
予想通り、僕達が勝てないと判断して逃げたのだと思ったチンピラ達は追ってきた。
そんな雑魚(思い込みだが……。)を逃がすのはプライドが許さないのだろう。
そして、|人気(ひとけ)のないところに来たところで急ブレーキ
をかけて勢いよく振り向き、 「魔法適性(氷)」でチンピラ共を凍らせる。
彼らは一様に驚いたような顔をしながら、声を発する暇もなく凍らされていた。
さらにそれを「魔法適性(風)」で粉々にする。
出血も痛みもない風の刃、それは言わば鎌鼬だ。
この方法を用いれば、血を残さないままに殺すことができる。とても便利だ。
生かしておくと後々めんどくさいことになりそうだし、血や体の部位が残ってもやはり面倒ごとになる気がする。
少しやり過ぎな気がしなくもないが、これも自業自得というやつだ。
スリの如く、事前にこっそりとフェラリーの「魔法適性(木)」と「植物操作」で奪いとっておいたチンピラ共の財布でうまい飯を食い、宿を取った。
ひさしぶりに良く休めた。
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僕達は何となく手なんかを振りながら、思い入れの欠片もない街を旅立つ。
そして、夕方頃に他の街に到着。
そこもやはり、今朝の街と同程度には綺麗だった。
恫喝紛いの手法で相当稼いでいたのか、昨日奪ったチンピラ共の財布にはまだ余裕があったので、昨日と同じように飯を食い宿を取る。
と、そこで僕はあることに気が付く。
――「追跡」の示す方向が変化しているのだ。
今までほとんど動きがなかった「追跡」が動いたということが告げる事実はひとつだけ。
この街にルイはいる。
「追跡」が示している方向を向くと、そこには大きな城のようなものがあった。
魔人とは魔王直属の部下だ。
あの城には魔人、あるいは魔王本人がいる可能性が高い。
僕は明日ここを攻めることを決めてから床についた。
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僕達は翌晩、人通りのなくなった城門の前にいた。
門番がいないので不信に思ったが、その疑問は空間を曲げて城内に侵入した途端に氷解する。
踏み込むと、そこは早速落とし穴だった。しかも落ちた穴の下には紫色の毒っぽい液体が満たされていた。
かなり残酷な仕掛けだ。
苦労して抜け出すと全方位から槍が迫る。これを光魔法の結界で全て弾く。
次々に迫る、殺す気で全く容赦を感じない罠を潜り抜けて、ようやく城の中に入ることに成功する。
しかし、そこには若い男がいた。
その男は大きな煙草を吸っていた。
それを見て僕は恐ろしいある事実を思い浮かべる。
嘘であってくれと祈りながら、その確認をするように「鑑定」を発動。
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名 前:アサヒ・レルレルラー
性 別:男
年 齢:23
種 族:魔人
職 業:魔人
スキル:「幻術適性」
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やはりか……。
僕は聞いたことがあった。煙草の煙は幻術発動の助けとなる。
知り合いに幻術使いがいなかったために本当かどうかは知らなかったが、これで本当なのだということが証明された。
つまり、僕達が必死になって避けていたのは全て幻だったということだ。
そして、全く気付けなかったということは、本気で相手が幻術を使うと僕は全く気付けないということ。
「くっ……」
また「創造」を使うしかないのか……。
そう考えていると脇から声が聞こえた。
「幻を見せられたとしても『索敵』なら使えませんか?」
「へ?」
フェラリーの言葉の意味を脳でかみ砕く。
そしてそれができるかどうかを考え……。
……確かにできそうだ。
幻術の効果範囲は視界だけだと聞いたことがある。
つまり、「索敵」で敵の気配を探れば勝てる?
僕は「索敵」で敵の気配を探り、気配のする方へ光速の光魔法を撃ち込む。
……視界が変わった。
つまりは幻術が解けたということで、それは敵を倒すことに成功したということだ。
見渡すとそこには確かに死体が落ちていた。
僕達は城の上階に歩き出した。