第十六話 地下空間
僕はソアールを襲った赤子、ルイの行方を追うことにした。
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追跡:見たことのある個体が今いる方向を示す。
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新たなスキルを「創造」する。
今までは「過去視」で追跡をしていたが、転移されてしまうとそれはできない。
その為、ルイを追うには新しいスキルを「創造」する必要があったのだ。
僕が「追跡」を発動すると、対象が居る方向を示すカーソルのようなものは下の方向を指した。
「下? どういうことだ?」
通常なら地上のどこかを指すはずだ。
そこに空間のない下方向を示すはずがない。
しかし、スキルに間違いはない。
つまり、そこから推測できることはひとつ。地下に空間があるのだ。
「下に空間があるなんて初耳なんだがみんな知ってるか?」
地下空間が存在することがわかったので、そのことについて知らないかみんなにも尋ねてみる。
しかし、それを知っているという者は誰一人としていなかった。
仕方がないので街での聞き込みを始める。
示す方向からして恐らくはソアール内の地下に空間が存在しているのだろう。
もしかしたら知っている人がいるかも知れない。
しかし……
「地下に空間? そんなバカなことがあるわけないだろう」
「あぁ? 地下に空間ね。知ってるよ知ってる。お化けがいるんだろ」
「ああん? バカにすんじゃねえよ」
こちらも何も有力な情報を得られなかった。
大体はふざけて返されるか怒られるかだった。
信じてもらえないのはなかなかに悲しい。
「索敵」で地下を探っても、深すぎるのか反応はない。
そこで、キーの精霊を地下に潜らせることにした。精霊ならば地面をすり抜けて深くまで行ける。
僕達はキーが放った精霊が戻ってくるのを宿で待つことにした。
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「地下に空間があったって!」
嬉しそうな顔をして、キーがそう言った。
やはり精霊に探らせたのは正解らしく、三時間程で戻ってくると早速その存在について報告してくれた。
さらに、存在を確認しただけでなく地下までの距離まで測ってきてくれていたらしい。
これならば時空魔法でもそこに行くことができるのでかなり助かった。
しかし、流石に早速それを実行するほどバカではない。
何の準備もすることなく敵地に突っ込んでいくなど正気の沙汰ではない。
捕虜にされるか殺されるのがオチだ。
その危険性などを十分に考えた結果、「隠密」スキルを持つ僕とフェラリーだけでそこに乗り込むことにした。
王城に侵入したときと同じ装備をしっかりと身につけることも忘れない。
僕は地下の空間に「魔法適性(時空)」で空間を繋ぎ顔だけ突っ込んでキョロキョロと周りを確認し、異常がないことをフェラリーに合図して忍び込む。
フェラリーが空間の境を越えたので、すぐに空間魔法の渦を解除し周りを見渡す。
そこは荒れた土地だった。
日差しなどなく、地面は乾燥しきって割れている。空気も濁っていて空と川の水は赤い。漂う腐臭は地上では全く関わりのない匂いだ。
そんな空間を見渡して顔をしかめながら、僕はフェラリーにサインを送るとルイの反応がある方に向かう。
歩くのは疲れるので数十メートルずつ空間魔法で転移していく。
しばらくそれを繰り返していると人が通りかかったので、警戒を解かずに「鑑定」する。
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名 前:未設定
性 別:男
年 齢:56
種 族:魔族
職 業:未設定
スキル:「武術適性(棒)」
種族スキル:「魔王忠誠」
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魔族、聞いたことはあったけど今まで見たことはなかった。こんなところにいたなんて……。
名前が未設定なのは何でなのだろう。魔族には名付け文化がないのだろうか。
棒術なんて初めて聞いたぞ。
次々と疑問が溢れてくる。
そして、何より気になること。
それは「魔人」であるルイにもあった種族スキル「魔王忠誠」だ。
詳しく鑑定するとこう書いてある。
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魔王忠誠:魔王からの命令には逆らえない。また、魔王に害を為すと思う行為を行うことができない。
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この物騒なスキル。
魔王が魔族をうまく纏めているのだと思っていた僕は心底驚いた。
これでは纏めているというより縛っているだ。
そもそも僕は魔族を統べる魔族の王を魔王と呼んでいて、魔王も魔族だと思っていたのだが、それはないだろう。
種族スキルは種族全員が例外なく持っているものなので、魔王が魔族であるなら「魔王忠誠」を魔王も持っていることになってしまう。
そんなものを持っていたら違和感しかない。
そのまま僕達は移動を続ける。
しかし、結局一日中移動し続けててもルイの下にたどり着くことはできなかった。
仕方なしに途中で野宿することにする。
地面は荒れていたのであまり野宿などはしたくなかったのだが……。
僕は二人分の柔らかい椅子とテーブルを「創造」する。
あまり「創造」を使いたくない僕だったが、これからあの強敵と戦う可能性もあるのでしっかりと休んでおきたかったのだ。
それに、僕は地面に直接腰を下ろすのが苦手なのだ。
この荒れた地下空間では食料や飲み水を手に入れることすら困難なので、あまりおいしくない非常用の干し肉を食う羽目になった。
フェラリーも文句こそ言っていなかったものの普段から良い物ばかり食している弊害か、その顔はすごい形に歪んでいた。
僕達はそのまま椅子で寝る。
寝ている間も「索敵」は発動させておく。
こうして地下空間での夜は過ぎ去っていった。
太陽がないのに夜はあるってどういう原理なんだろう。