火縄銃で孔雀を撃つ
「は……」
「俺は腐っても勇者だ。このシールドが俺を守ってくれる。並の攻撃じゃ破れないね。で、君は俺に何をお願いしたいのかな?」
「なるほど……そのミントって女の子なら家に入れるよ」
「やつがれは……」
「お前は男だからダメだ」
やっぱり。
こいつは女をとことん贔屓するクソ野郎だったのだ。
「じゃあ、今日の目的のモンスター討伐行くよ」
「……スライム」
街を出て最初に出会ったモンスターのが、スライムであった。
しかし、それは決して青くてくりくりした目の可愛いスライムではない、もっとどす黒い感じのヘドロの塊のような奴であった。
「力を見せてもらう」
勇者が偉そうに言う。
従うしかないのだから、仕方が無い。
「土を形状変化させたら……」
俺はそう思い、手袋を付けた右手を地面に付け、スライムがいる地面から槍が出てくるように念じると。
ドスッという嫌な音と共にスライムは串刺しになっていた。
俺の想像した通りに。
次に現れたのが、小さな獣の<ドレッドキッズ>であった。
「やつがれは材料を探してきます。勇者様はその間に足止めを」
俺はそう言って少し遠く離れた木下まで走っていった。
そこには、少し錆びている大剣が転がっていた。
これで。
最近の構造は分からないけど、あれなら。
<火縄銃>なら建造方法が分かる。
最近の拳銃などの作り方は分からないが、火縄銃ならだいたい分かる。
鉄を形状変化し、収納しやすい形に作り替える。
ふと勇者の方を見ると。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スライムに飲み込まれていたのだった。
放置して死を待つのも良しだが、それだと天空神との約束が違う。
契約放棄と同じで、俺はあの教会にまた閉じ込められてしまうだろう。
そうだ、とひらめいてスライムに左手を触れると。
スライムは凍ってしまった。
「何するんだ! 俺まで氷漬けになるところだっただろ!?」
「申し訳ございません」
とりあえず適当に返事を返す。
とりあえず、鉄は手に入った。
元々のシャーペンの芯の鉛を置いて、鉛を状態変化で液体化し、そこから不純物をどけて個体化して鉛の塊を作る。
それを形状変化で尖らせ、銃弾を作った。
そして無数の木の棒を形状変化で銃のベースとなる形にし、鉄を状態変化で液体化し、それを銃の形として個体化する。
その鉄と木を合体させ、勇者が持っていた爆弾の火薬とヒモを拝借して銃に詰め込んだ。
<火縄銃>の完成だ。
本当はもっと難しいのだろうが、最低限玉が飛ぶ程度しか分からないから仕方が無い。
とは言っても最低限である火鋏ひばさみに付けた火縄が引き金を引くことにより、ばね仕掛けで火皿というくぼみに落ちる仕組みにはなっている。
適当な長さの木の棒で火薬と弾を押し込み火縄銃を構える。
狙うは、目の前の<ドレッドキッズ>──
火薬が爆発する音と共に、およそ20m先のドレッドキッズは力尽きたように倒れた。
「やったか」
その元に行ってみると、しっかりと脚に銃弾の後が残っている。
悪いが、死んでもらって勇者の経験値の糧となってもらおう。
そう思って1度火縄銃を掃除してから火薬と弾を詰め込んで、トドメをさそうとしたその時──
「やめなさい!!」
うしろには。
女騎士が。
「その魔獣はなんにもしていないでしょ!? 離しなさい!」
こいつは多分、トドメを指して経験値を自分のモノにしたいだけなのだろう。
ドレッドキッズはここでは最強モンスター。
ここら辺の中では。
とりあえず、様子を見ておくか。
「分かりました。やつがれは離れましょう」
俺はその弱っているドレッドキッズから離れる。
するとその女騎士は剣を抜き、
「で、でも、弱ってるからころしていいよね」
と言って剣を突き刺そうとする──
わけにはいかないのだ。
「おい」
それは。
いつもよりもドスの効いた声。
他ならぬ、俺であった。
悪いが、俺の獲物を横取りする奴は許さない。
「金も、名誉も、地位も、女も、食料も、能力も、経験値も。この世の全てを欲する俺にとって横取りはどうかと思いますけどね」
火縄銃を頭に突きつける。
「はは……強欲ね」
そう言ってその女騎士は剣を投げ捨て、手を挙げた。
すると。
「それより、そこのイケメンな方は誰?」
女騎士に言われる。最初は信じたくなかったが。
指さしていた方は、勇者の方であったのだった。
「アハーン、勇者様ぁ〜」
「はっはっは、付いてきてくれるならいいぞー」
一時間後、街に戻った。
女騎士は勇者に抱きついた。
その女騎士は勇者にメロメロになっていたのだった。
どんな魔法を使ったこの勇者!?
「今、俺のことを不審に思ってるでしょ?」
「えぇ、まぁ……」
不審に思わない訳がない。
俺はこいつに財力以外の全てにおいて勝っている自信があったのに。
「俺は、<孔雀>の力を持ってるんだ」
孔雀。
その華麗な羽で求愛行動をする生き物として有名だが。
そういうことか。
「あなたの行動一つ一つが、求愛行動になっている、というわけですね……」
「ご名答」
なんてチート能力。
それならかつて男子1度は夢見たことがあるであろうハーレム帝国だって作れてしまう。
俺は戦闘だけでなく、あらゆる場面で使える能力を持っているのだが、こいつは対人間に特化している。
強い。
勇者の暗殺の計画が、どんどん夢物語に見えてくるのが目に見えているのを、否定したい自分がいるのだった──
「ホントですか!?でも結羅さんに悪いですよ」
「いいって。やつがれは庭で寝ています」
ミントに勇者の家に泊まっていってもよい事を休憩時間中に言っておくと、ミントは飛び跳ねて喜んでいた。
「それにしても、どうして<僕やつがれ>なんてへりくだった一人称なんですか?」
「いや、それは……」
ミントに言われて返答に詰まる。
神に誓ったこと、なんて言ったら笑われるだろうか。
「いいですよ、そんなへりくだった一人称じゃなくて。お互い恥ずかしい所を見せ合いましたし」
「そうやって言われると俺が変なことした感じじゃん」
「ふふ、それでいいですよ」
ミントはそうニッコリと笑うのだった。
家らしきものに戻ると、とある魔獣がいたのだ。
「お前……俺が撃った……」
「ぎゃう」
さっき撃って逃がしたハズのドレッドキッズじゃないか。
脚に怪我を負っているし。
そのドレッドキッズは、俺が家に一時的に置いていった火縄銃の掃除をしていたのだ。
「天才かよ……」
「ぎゃーう」
はい、かいいえ、か分からない返事を出した。
飼うか。
ここまで来ちゃったんだし。
殺すわけにも行かないよな。
そう思って俺は前世で持っていたバッグからたまたま入っていた絆創膏と包帯を取り出し、治療を始めたのだった──