008
「……ほわぁ……」
「口開いてる」
「んぐ」
イケメソ改めジルと森を抜け、あたしは漸く街に辿り着いた。
右を見ても白い壁、左を見ても白い壁。
あたしが縦に何人並べば乗り越えられるのか、ってぐらい高い壁に囲われた街だった。
そしてその門扉もおっきかった。
縦にも横にもね。
思った以上に大きい街のようだ。
門扉の脇の方で1人で物珍しさにキョロキョロしているあたしだが、その間にもジルは慣れた感じで門番さんと何か話している。
あたし達以外にも街を出入りする人がいて、注目されているのがわかった。
そんなに目立つかな?と身を小さくしたが……どうにもこの注目はあたしだけじゃない。
というか、ジルの方が注目されている。
あたしに向けられる視線は簡単に言えば『なんだこれ?』だ。
多分服装が目を引くんじゃないだろうか。
あたしの上下スウェット姿は、変な意味で目立つ模様。
出入りする人達の服装ってもっとしっかりしているせいだろうね。
足元はゴツイブーツみたいな靴だったり、陽射しよけのマントや帽子、服も生地がしっかりとしてそうな、まんま旅人!って感じだった。
それが普通だとしたら、スウェットしか着てない、更には裸足のあたしは『なんだこれ?』だろう。
まず、裸足なのがね!
これにはジルにもどうすることも出来なかった。
ジルは散歩していただけらしく、流石に替えの靴なんてものは持ってなかったのだ。
なのでおんぶしてくれましたよ。
おんぶされて出入りの列に並んだ時から見られてたから、即下ろしてもらったけど……やっぱり服装って目立つよねぇ。
「ユウナ」
「あ、はいっ」
1人でまたも金策に悩んでいると門番さんと話してたジルに呼ばれた。
足下に尖ったものがないのは確認済みなので、早足で駆け寄る。
「カードなんて持ってないよね」
「カード?」
「こういうの」
そう言ってジルが見せてくれたのは、名刺サイズのカードだった。
見ただけだとアルミっぽい材質で、縁が額縁みたいに金色の柄で飾られている。
そこにはジルフォードなんちゃらと名前が書かれ、Sだとか何か色々書かれていたけれど、そんなカードあたしは持ってませんね。
そう思って首を横に振れば、ジルはさも当然のように頷くし、門番さんは苦笑いを浮かべた。
「では通行料をお願い致します」
「うん。はい」
ちゃり、と軽い音がジルの手から門番さんの手へと渡り、ここでも金か!と頭を抱えたくなった。
ジルには迷惑掛けっぱなしで申し訳ない。
しょんぼり肩を落としていると、ジルに肩を叩かれた。
顔を上げれば小さく微笑んだイケメソが居て一瞬息を飲む。
「気にしないでいいよ、僕の道楽だからね。さあ、行こうか」
なんと性格の良いイケメソなのか。
心の中で拝みつつ、手を引かれるまま街の中へと足を進めた。
あっちから客引きの声が聞こえ、こっちでは楽しそうに買い物をする声が聞こえ、その活気のある様子に心が浮上する。
そうしてキョロキョロと落ち着きのない、子供っぽさを隠すことを忘れて色んな所へと目を向ける。
そうして気付いたのは耳や尻尾だ。
顔つきも少々人間とは言い切れない人達もいて、ここが異世界なのだとよくわかった。
獣人、ってやつですね!
やっばい、あの人猫さんだよ!
あっちは犬っぽい!
うっわ、触りたい!
大声でそんなことは言えないから、心の中で叫ぶ。
なんだかチラチラとこっちを見てる人もいるけれど、突撃して触らせて下さい!とも言えない。
目が合った人が何故か引き攣った顔をしていたけど。
速攻逸らされたけども。
目標が1つ出来た。
いつか獣人さんと仲良くなって触らせてもらおう!
観察した街並みは、ゲームっぽい感じがした。
ゲームっぽいとは、家の外観とかね。
外国風で、日本っぽさはあまり見えない。
掲げられた看板はイラストが多く、もしかしたら識字率が低いのか?と思えるぐらいだ。
ジルの説明では、剣が2本、バッテンで描かれているのが武器屋。
下の方が尖った五角形の盾の絵が防具屋。
小瓶の絵が道具屋。
ダイヤモンドの絵が魔導具屋。
ジョッキの絵が酒場。
グリフォンの絵が冒険者ギルドだと言われた。
グリフォンってあのグリフォンかなぁ?と思いつつジルに半分引き摺られるようにして道を歩く。
何故引き摺られる形かというと……あたしが興味深々にあっちこっちに意識を持っていかれるせいで進まないからですね!
いやだってさ、露店があって珍しいものが並んでたり、甘い匂いがしたりお肉が焼けるような香ばしい匂いがしたりと、あたしを誘惑するお店がいっぱいなんだもん!
そんなあたしが連れて行かれたのは、ふくらはぎまでの長さのブーツが描かれた看板のあるお店だ。
うん、靴屋かな。
よくよく考えなくても裸足だもんね、あたし!
店に連れ込まれたあたしは、入り口傍にある円形の椅子に座らされた。
「動かないでね」
「あ、はい」
ジルに釘を刺され大人しくしていると、ワンピース姿の女性がタオルを持って来てくれた。
「おみ足の汚れを拭かせていただきますね」
「あ、いえ! 自分で出来ますから!」
にっこりと微笑んでそう言われ、ビックリした。
足ぐらい自分で拭きますがな!
だがめっちゃありがとう!
お礼を言ってタオルを受け取り、足の裏を確認してみる。
どす黒い感じに若干どころかマジで引いた。
自分の足ながら、これはないわ。
ほかほかのタオルでゆっくりとその汚れを拭うのだけど……汚れが酷すぎて1枚じゃ足りませんでした。
ごめんね、店員さん!