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007

 ガサリと草を掻き分けて現れたのは、2匹の狼で……あたしと既に対峙していた狼が倒れているのを見て、牙を剥き出して唸り始めた。
 やっぱり戦闘か、と思って膝を落として身構えた瞬間、ゴォッ!と音と朱(あか)が横手から飛んで来た。

「ギャォオオオッ!」

 朱が向かった先は狼で、炎に飲まれて狼は悲鳴を上げ……そうして地に倒れた。
 真っ黒ですわぁ……。
 炭だぁ……。

「……へぇ」

 小さな呟きと共に現れたのは、イケメソでした。

 イケメソは紺色のローブ?マント?を着ていて、見た目が魔法使い、って感じだ。
 右手にも杖を持っているしね。
 その杖の先端には宝石みたいな綺麗な石が嵌っていた。
 それは淡く光っていたけれど、徐々に落ち着いて光は消えていった。

 多分さっきの炎はこの人が出したものだ。

「……あの、危ない所をありがとうございまし、た……?」

 助けてくれたのか、物取りかわからないけど、とりあえずお礼を言えば、イケメソは小さく微笑み杖を地面に立てた。

「うん。……でも、助けはいらなかったかな?」
「いえ、助かりました」

 細めた目をきょろ、と動かしてあたしが倒した狼を見た(と思う)。
 イケメソはその目であたしをじっと見て、そうして首を傾げた。

「どこの子かな? いくら(ウルフ)が大したことのない魔物とはいえ、そんな軽装で森に入ってくるなんて」
「あー……街を、目指しているだけなんですけど……」

 物凄く説明に困る自分の置かれた状況に、目を泳がせてしまう。
 声も小さく、ごにょごにょと言い訳にもならない言葉しか出てこない。
 どう見ても不審者でしかありませんね!

「街? この先の?」

 首を傾げたイケメソが指を指したのは、あたしの目的の方向で、こくこく頷く。
 街の名前も知りませんでしたね、あたし。
 居心地の悪い視線に曝されながら、イケメソの次の言葉を待つか、さっさと進むか悩む。

「冒険者……ってわけでもなさそうだし……でもいい所の子でもなさそうだし……」

 あたしをじろじろと見ながら何かぶつぶつ唱えてるイケメソに、悪意とかは感じないけれど居心地は悪い。
 詳しく突っ込んでくれるなよ?
 説明はしにくいし、したくないんだ。
 内心で冷や汗をかいていると、イケメソが周囲をぐるりと見回した。

「護衛は?」
「……いませんが……」
「じゃあこの狼達は君1人で?」
「はぁ……」
「へぇー」

 何の質問だろうかと訝しんでいると、イケメソが静かに近寄ってきた。
 距離が近くなるとイケメソの顔はちょっと上を向かないと見えなくなる。
 イケメソで身長高いとか、女の子にモテそうだな……。
 だけど近づいてくる意味がわからぬぞ。

「あの……」
「行く当ては?」
「……ないです、けど……」

 何の質問だ。
 イケメソの意図がわからず、じりと後ずさりしてしまうが、それは仕方ないよね。

「じゃあ僕とおいで。面白そうだし」
「は……?」
「うん、じゃあ狼の処理しちゃいなよ。待ってるから」
「いや……あの……」
「行く当てないんでしょ? 悪いようにはしないから」

 その言葉をどこまで信用していいのか……。
 だけど、何もわからないあたしにはありがたいのはありがたい申し出ではある。
 考え込むあたしを見て、肩を竦めたイケメソは何故か倒れている狼を引き摺って戻ってきた。

「ほら、早く処理しちゃいなよ」
「処理……?」
「処理の仕方を知らないの?」
「……はい」

 ドサリと地面に落とされた狼に、処理をしろと言われてもどうしたらいいのか。
 素直に知らないと頷けばイケメソはなんだか呆れた表情をした。
 この世界では処理とやらは一般常識なんだろうか。

「本当に何も知らないんだね。詐欺にあっても気付かないんじゃない?」
「はぁ……」

 そんなこと言われてもねぇ。
 この世界で会ったのはイケメソが最初なもので。

 内心でそう答えるとイケメソは腰に下げたポシェットからナイフを取り出し、狼の横にしゃがみ込んだ。
 そうして始まったのはスプラッタである。
 手際良く狼を解体していくイケメソに、ちょっと身を引いた。
 血の匂いがきつくて眉間がぐぐーっと寄る。

「素材を剥ぎとれるようにならないと面倒だよ」
「ここでは一般常識?」
「一般常識かと聞かれると……まあ、狩りをする人間には、かな。冒険者とかね。アイテムバックがあればギルドに持ち込んで処理してもらうのも手だけど」
「なるほど」

 イケメソの言葉に頷けるけれど……出来れば処理はしたくないな。
 我がままだと言われてしまえばそれまでだけど、こうして眺めているだけでも難しそうなのがわかるし、血生臭い。
 アイテムバックとやらをゲットしたいね。
 そうなるとお金がいるか。
 でもそれには換金するためのモノが必要になるわけで……。
 あーくじゅーんかーん!

 はぁ……お金何処かに落ちてないかな……。

「あ、そうだ。僕ジルフォード」
「は?」

 1人で肩を落としていたら、突然声をかけられた。
 顔を上げればイケメソは狼に向き合ったままで、何を言われたのか半分は聞いておらず間抜けな声が出た。

「長いからジルでいいよ」
「……あっ、あたしは優菜。よろしく、ジル」
「うん」

 一瞬何のことかと思ったけど、どうやら名前だったようで、慌てて名乗る。
 そういえば名乗ってなかったわ。
 少し血の匂いに慣れて恐る恐るジルの手元を覗きつつ処理が終わるのを待った。

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