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ボッチ、初戦闘をする

「「「「......!」」」」

 ───煙が無くなった時、それは姿を現した。

「どうしてここに......!?」

 ルリアは瞠目しながら、思わず口にしてしまう。

「「「......!」」」

 三人の男達は煙が立ち籠っていた扉を凝視していたが、煙が消え去るとすぐに目を鋭くした。

「───失礼しまーすお取り込み中のところ申し訳ありませーん......ちょっと道に迷っちゃって......」

 そう呆気ない声に出しながら、男達の前までわざとらしく苦笑しながら歩み寄ってくる。

 部屋に入ってきたのは、ここらではよく見られない黒髪をした青年だった。

 青年は男達を見て、何故か不敵に笑い、次には背中から長剣を抜き出しながら、こう言った。

「ここってボルズ公の屋敷で合ってますか?」

 青年はそう言うと、抜き出した長剣の切っ先を男達の方に向けた。

「っ......」

 男はすぐに謎の青年を分析する。

隙がねぇ......こいつ見た目の割には剣術に腕があるな。だが黒い髪をしてるってことは東の方から来たっていうことだから......あいつは魔法を使えないということ。それに対して魔法が使えて元Bランク冒険者だった俺達だ......負ける要素が見つからねぇ

 男は舌打ちした後少し黙考した瞬間、僅かに口角がつり上がる。

というか誰も通すなと前庭の奴等には言ったはずだが......いや、まさか

 だが男はここに敵が来たという事に、疑問を抱いた。

「おい......前庭の奴等はどうした!」

 男は青年がこちらに向けるように、自分も青年の方に剣の切っ先を向けながら、睨み付け、声を張り上げる。

「......前庭の人たちなら連れの人がボコしてます。そろそろこっちに来る頃じゃないですかね? あ、それとそこで捕まってた使用人達は全員解放させて頂きました」

「何?......」

青年は男の質問に淡々と返した後、また続けた。

「騎士が大勢倒れていましたが......あなた方がやったんですね」

「......はっ! それがどうしたってんだ? 強いやつが生きて弱いやつは死ぬことなんてこの世界では常識だぜ? そんなのもわかんねぇヘタレなんだな。にしても今日は餓鬼が調子のる日なのかよ? さっきまでは女の餓鬼が調子のって、今は男の餓鬼が調子のってるじゃねぇか」

「調子乗ってないですよ......現にこうして敬語で接してるじゃないですか?」

「そんなこと言うなら俺らに突き立ててるその剣は何なんだよ。年長者にそんなもの突き立てていかにも行動が調子のってるんだよ」

「え? あぁこれですか。すみませんね......この剣はどうしても下ろせないんですよ。あなた方がさっきやってた行動がどうしても許しがたいことなので体も言うこと聞かないんですよね......実際、世間から見たらあなた方の行動の方が調子のってるっていうんじゃないんですか? 度も優に越してますよ?」

「あぁ? 偽善者が何いってんの?」
「ぷっ......お前みたいなひょろくせぇ糞餓鬼が何をほざいたって世間は何も加担してくれないのは明らかなんだが......」
「調子のってる行動はしてねぇよ。なんせ弱肉強食のこの世界の理を実行してるだけだからな」

 青年からの言葉に三人はいち早く反応し、反論をそれぞれ重ねた後、男が命令する。

「お前ら......遊んでやれ」

「いわれるまでもねぇよ」

 三人は男に命令された通り、青年を周りを囲むように回った。

 一方、その光景を目の当たりにしているルリアは困惑していた。

あの人......一切あの大柄な男たちと対話して怯んでないですね......

 ルリアは男達に剣を向けている青年を凝視する。

体は細身ですが服の上からも鍛えているのが分かります......長身で......あの男達と大差ないくらいですね......黒い髪の毛ということは東の方から来たのでしょうか。東の方から来たのであれば魔法が扱えるあの男達に扱えないあの人は大苦戦を強いられる筈ですが何故、あんなに平然としていられるのでしょうか......

 ルリアはますます首を傾げたが、それよりもまず状況がいかに悪化しているのか再確認する。

 ルリアが見ているのは、長身で黒髪のまだ幼さが残る顔立ちをした青年と、三人の屈強な男達に狙われているという、明らかに無謀な光景だった。

このままでは......私の前で私より若い命が潰えてしまいます......!

 ルリアはその幼さが残る顔立ちから年下だと推測し、尚更自分より年下が勝てるわけがないと目を細めた。

 男達はまるで獲物をいつ襲おうかとハイエナの如く、青年の周りを一定の間合いを保ちながら回っている。

 そんな青年と三人の男達によるいがみ合いを見ているメイド達は依然として震えている人と、その行く末を静かに見守ろうしている人に分かれ、ルリアはというと何か自分に出来ることはないかと模索中だった。

「......」

「おいおい......さっきまでの威勢どうしたんだ? まるで縮こまっているようにしか見えないぞ?」

 端から楽しそうに見ている男の言葉に、青年は依然として剣を男の方に構えたままだ。

まさか打つ手がないんでしょうか?

 ルリアが切羽詰まった顔で青年を見ていると不意に青年が震えているメイド達に対して笑顔を作ってるのを視認できた。

「ぇ......」

 ルリアにも青年は笑顔を作ったため、ルリアはこの状況で笑顔を作ることが自分に笑顔を作った時は青年の行動が理解できなかったが数秒経った時、直にその笑顔の意味を察することができた。

まさか......私やメイド達を安心させようと?

 青年はルリアに向けていた視線を、大量の血を流して虫の息のビルの方に移し、それを見た瞬間目を細めた。

 そして、青年は悔やむように歯を食い縛ると、男達に先程までの平然な表情とはかけ離れた、鬼の形相のように男を睨み付けた。

 ───刹那

「じゃあ死ねや餓鬼がッ!」

「「ッ!」」

 と、三人のうちの一人が足を止めてそう叫ぶと、合図されたかのように三人は一斉に青年に向けてその剣を振り上げた。

「だめっ......!」

 リエルはその光景に、思わず身を乗り出してそう叫ぶ。

 メイド達も、三人の屈強な男達が振り上げた剣を見た瞬間、その先が予想できたのか思わず目を固く瞑った。

────しかし

 部屋に響いたのは肉を切り裂く音でも、血飛沫が飛ぶ音でもなく、詠唱だった。

「【火よ───その炎をもって我を守護せよ】」

 そう高速で発せられた青年の詠唱に、楽しそうに見ていた男は驚愕した顔で見開いた。

「何!?」

魔法が使えるだと!?

 男は予想が裏切られたと共に、余裕を失う。

「詠唱......!?」

しかもあの詠唱は生成が難しいとされる壁魔法ですか!? 

 リエルやメイド達、そして剣を振りかざした三人の男達全員が瞠目する間に、詠唱は完成する。

「【炎の壁(ファイヤーウォール)】」

 瞬間、青年の周りに業火に燃え盛る炎の壁が、ボオォッ!、という大きな音を出しながら生成された。

 部屋の温度が一気に上昇する。

「くそっ......!」
「っ......!」
「ああぁ熱ッ!......!」
 
 三人の男達は炎の壁に剣が当たる寸前に肘を曲げて直撃を回避した。

 青年はそれに驚いた顔でこう言った。

「避けた......ということはあなた方のその剣だと、火の壁に触れた瞬間溶けてしまうということですね? それだったら残念でした。大分引き付けて壁を生成した筈ですが後もうちょっとで避けられてしまいました......」

「うるせぇよ......大体東の方の人間ならどうして魔法が扱えるんだよ?」

「さぁ......? 別にあなた方に教える義理は無いので」

 そう青年が答えた後、男はせせら笑いこう言い放った。

「そうかよ! せっかく時間稼ぎのチャンスを与えてやったのになぁ! お前らもう手加減なしでいいぞ......こいつは早く消えてもらった方がいい」

 男の言葉に三人の男は口を吊り上げて、様々な返事をした後、三人はこう詠唱した。

「「「【精霊よ───力を我に与えたもう───身体強化(ブースト)!】」」」

 すると男達のそれぞれの体を薄い青白い光が鎧のように纏った。

 青年もそれを見て、こう詠唱した。

「【闇霊よ───我との契約に従い我に纏え───闇騎士(ダークナイト)(アーマー)】」
 
 すると胸から出てきた黒いオーラが薄い膜となり、青年の全身を覆った。

「「「「......!?」」」」

「!? ......お前魔族か!?」

 その一連の光景を見ていた男が驚愕した顔を青年に向けた。 
 三人の男達と、メイド達、ルリアもそれに含まれている。

 男の質問に、青年はため息をついて返答する。

「だからあなた方に教える義理はありませんてば」

「っ......もういい! やっちまえ!」

 その張り上げた男の声に、三人は驚愕していた顔を再び青年を睨み付ける顔に変えた。

 しかし、その顔にはさっきまでの余裕はなく、汗をかいていた。

 ルリアはその光景を呆然と眺めていた。

あの黒いオーラは!?......一体何者ですか......?

 青年はゆっくりと長剣を構え、次にはこう呟いた。

「剣術には自信があります......通用するかは分かりませんが」

 そう苦笑した途端、青年は剣を構える三人の男達に上段に構えながら地面を蹴った。

「なっ!?......」

 真ん中で構えていた男の目の前には、五メートルはあったはずの距離を一瞬で殺した青年が剣を上段に構えていた。

 あり得ない速度で迫った青年は、相手が反応する前に上段で構えていた長剣を、振り下ろした。

 ───剣の腹で、だが。

「......ぐあっ」

 三人の中で真ん中で構えていた男は反応することができず、脳天に容赦ない打撃が襲う。

 脳がその衝撃に耐えきれず、男はよれよれと一歩、二歩と後ろに下がった瞬間、そのまま後ろに大の字に倒れ、気を失った。

「「......」」

 二人の男は、突然のことで呆気に取られていた。

「......お、おい! 早くぶっ殺せ!」
 
それを見ていた男は、同じように呆気に取られていたが、すぐに激を飛ばした。

「くっ!」

 一人がすぐに切りかかったが、青年は飛び退いて回避する。

「そろそろかな......」

 青年は飛び退いた後、そんな意味不明な発言をした。

「なにいってやがる?」

「......はぁ」

 青年はまたその言葉に対してため息をついた。

「だからあなたに答える義理はないといってるじゃないですか?」

 青年はそう言った後、長剣を構え直した。 

「そうだったな......そう言えばお前、糞餓鬼だったな」

 男は口角を今まで以上に吊り上げながら、そう言った。

 青年はその言葉に対し、こう返答した。

「そんなことば、人生ではじめて言われましたよ」

 不敵に笑いながら、そう答えたのだった。


 ▣ ▣ ▣ ▣ ▣ ▣

「ちっ......いてぇなぁ......!」
「ぐぁ......」
「はぁ......はぁ......」
「くそっ......」

 前庭には屈強な男達が血を大量に流しながら地に倒れて苦しんでいた。

「そこで寝てなさい。犯した罪の分を貴方達はその身をもって体感すればいいわ」

 男達が倒れているなか、一人でに立っているアリシアに爽やかな風吹き、紅い長髪を揺らした。

「アリシアさん!」

 そう叫び、物陰に隠れていたジャックは、ひょこひょこと金色の短髪を揺らしながらアリシアに駆け寄った。

「怪我はありませんか?」

 アリシアは早々に心配してくれたジャックの頭を撫でて微笑みながら礼を言った。

「ありがとう......大丈夫よ。攻撃なんて掠りもしなかったわ」

「それは良かったです」

 ジャックがそう言って満面な笑みを浮かべ、アリシアも返すように笑顔を作った後、屋敷の方に顔を向けて、アリシアは目を細めた。

「ジャックくん。シュンに元に向かうわよ?」

「はい!」

 アリシアはジャックの小さな手を引きながら、屋敷の扉を開け、その奥へと姿を消した。

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