ボッチ、山から一ヶ月振りの王都へ
訓練が始まって一ヶ月後、王の間には王にある報告をしている騎士がいた。
「───ふむ......一ヶ月経ったか」
「は......一先ず、転移者全員が一ヶ月の基礎訓練を終えました」
「そうかそうか......して、あの者らはどのくらい変わったかね?」
「は......それを今確かめようと思います......───扉を開け」
「「了解」」
報告していた騎士が扉の前に控えていた騎士二人に号令をかけると、二人の騎士は号令された通りに扉を開いた。
ギギ......
と、軋む音をたてながら、ゆっくりと開いた扉の奥から、優真を筆頭に一段と凛々しくなった転移者達が入室してきた。
「おお......」
王は見違えるほどではないが目付きが真っ直ぐになった優真達をみて、思わず感嘆してしまう。
転移したての頃の優真達は、まだ子供っぽくどこか情けなかったのだが、今はアースレルを筆頭にその道を極める者達が教え込んだ成果なのか、何か内面的がガラッと変わったように感じた。
転移者達は王の前に並んだ後、優真が口を開いた。
「───国王様。転移者全員、基礎訓練を完了しました」
「うむ......努力して成長したのが見た目からでも感じられるのう」
「まぁ......結構キツかったので」
「はは......アースレルが教えたのじゃからそれもそうじゃのう!」
「団長は自分よりも厳しい者が居ると言ってましたけど?」
「あぁ、アリシアの事を言ってるのじゃろうな......アリシアに訓練させると必ず半分以上は気絶したものじゃから、何度かここに呼び出して注意したことがあるのじゃ」
その言葉に優真は少し心配そうな顔になり、王に質問した。
「その......駿は大丈夫なんでしょうか......?」
そして優真のとなりで今まで口を閉じていた伽凛も質問する。
「近藤君は......無事なんですか?」
「はははっ............」
「「───?」」
王は二人からの質問に笑い、二人もそんな王に首を傾げたが、王は笑った後返答した。
「大丈夫じゃよ......先程アリシアとコンドウ殿が訓練して引きこもっている山に伝言を走らせて、報告を無事終えたところじゃ」
「「「えぇっ!?」」」
全員が山というワードに驚愕した。
「あぁ! だから駿に一ヶ月も会えなかったのか」
優真も驚愕したが、前々から疑問に思っていた事の答えが出たので納得していた。
「まさか......近藤君とアリシアさんが......二人きりで山にずっと引きこもってたってこと?」
伽凛は驚愕はしなかったが、前にもなったように冷気を感じさせるほどの怒りを露にしていた。
「近藤なんか男だな......」
「それな! 修行してたのかな」
「なんか凄い気になる......どんぐらい変わったのか」
「もしかすると修行だから断食とかしてんじゃね!?」
「あーたしか......なんとかガンディーがやってたな」
「写真みたけどあの人肋骨見えてたよね......」
「マハトマだろ? しっかし近藤があんな風になってたらそれはそれで面白いけど......」
「いや笑えねーだろ。ホネホネ近藤なんて気持ち悪いわ! 誰でも気持ち悪いわ!」
クラスメイト達は驚いた顔でそんな似たような会話を繰り返していた。
王はそれにみかねて咳払いをして、静かになった後、話をつづけた。
「それで五体満足でなんら変わりなく、基礎訓練を終えたそうじゃ」
「ふぅ......では駿は現在どこに居るんでしょうか」
優真は安堵すると、居場所を聞いた。
「ふむ......伝言が言うにはもうこっちに到着している頃だと思うのじゃがな」
「なるほど」
「では......早速どれだけお主らが成長したか見るとしよう。───あれを持ってくるのじゃ」
王がそう言うと、数十秒後には執事が丁寧そうに布で包んだ推奨が乗った机を王の前に置いた。
「───まず最初は......アサノ・ユウマ。お主じゃ」
「......はい」
優真はゴクリ、と息を飲みながら、水晶の前に進み出て、おずおずと水晶に触れた。
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アサノ・ユウマ
男性
人族
パラディン
Lv1
HP 469
攻撃力 368
魔攻力 277
MP 386
敏捷 497
耐久 320
スキル
剣術5Lv/10
樹属性魔法1Lv/10
光属性魔法1Lv/10
固有スキル
剣豪の記憶
・剣術のスキル熟練UP経験値限度が1/2になる
・持っている武器(剣限定)に耐久性と鋭さが二倍付与される
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「おお......」
「ふむ......強くなったの。パラディンということもあってHPと耐久が多い。しっかりと鍛練してるみたいじゃの」
優真は王の言葉に頷きながら、その目は紙にずっと向けていた。
こんなに......いや、一ヶ月もやったんだからこれぐらいいくよな......
と、優真は嬉しく思いながら、紙を丸めて大事そうに胸ポケットに仕舞った。
「ちなみにLv1なのは、まだ十分な戦闘経験をしていないからじゃ。模擬戦闘でも同じことで、自分の命を賭して戦ったことだけが戦闘経験を増やす唯一の方法じゃ」
「教えていただきありがとうございます」
優真は深々と礼をすると、水晶の前からクラスメイトのところへ戻っていった。
「次は......ミネサキ・カリン。お主じゃな」
「......(会えなかったのに......私は一ヶ月も会えなかったのに......アリシアさんだけずるい......顔も見てないのに......毎日毎日アリシアさんは近藤君の顔や横顔を独占してたんだよね......本当にずるい......まぁそうだよね......近藤君は私なんか好きになってくれそうな仕草を見せないし......どうせ......私なんかより赤くてさらさらなきれいな髪の毛で青くてきれいな目のモデルさんみたいに美人のアリシアさんに絶対振り向くだろうし────)」
「......む?」
王は呼んだ筈なのだが、当の本人はなにやら何かブツブツ言っている。
「ミネサキ殿......?」
王は少し心配そうな声で名前を呼んだ。
「────どうせ..............................あっ..................はい」
「だ、大丈夫か?」
「はい......大丈夫です」
「「「......?」」」
伽凛の普段から一度も見せなかったあり得ないほどの落胆しように皆から心配と困惑の表情が広がる。
伽凛はおぼつかない足取りで水晶の前に向かい、やがて触れた。
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ミネサキ・カリン
女性
人族
賢者
Lv1
HP 278
攻撃力 132
魔攻力 498
MP 512
敏捷 297
耐久 175
スキル
水属性魔法4Lv/10 治癒魔法5Lv/10
光属性魔法4Lv/10
固有スキル
女神の治癒(下位)
・対称の個体に、全回復、状態異常回復する。
・スキル使用後、自動回復(大)が付加。
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「......」
「おお!」
王は瞠目しながら感嘆したが、伽凛はそれよりも早く駿に会いたいと思っているため、自分のステータスはどうでもいい訳ではないが、今はそんな気分じゃなかった。
「どうしたのじゃ......? ミネサキ殿......何だか気分が優れない様子ではないか」
伽凛はその言葉に「いえ......」と、言った後、すぐに戻っていってしまった。
そんな伽凛に王は心地が悪そうに、むぅ......、と髭を擦る。
何が何だか分からないのじゃが......待たせるのは悪いの
「では次───」
王は心のなかで首をかしげながらも、確認を続けたのだった。
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「やっぱり人多いな......」
「それはそうよ......ここはグランベル王国の中心、そして首都である王都だもの」
伝言が来てから、山を降りた駿とアリシアは徒歩で城に向かっていた。
今は王都の街中の人混みが凄い大通りを二人で並んで歩いている。
「王都っていうのか。なんかファンタジーらしくて良いですなぁ......」
「ふぁんたじー......って何よ」
アリシアは聞いたことがない言葉に、眉をひそめた。
「説明を要約すると、この世界全体を指しますね」
「うん......?」
ごめん要約しすぎて意味が分からないわ......
はてなマークをもうひとつ増やした様子のアリシアを見ながら、ふっ!......、と駿は笑いながらこういった。
「まぁ師匠にはまだ早いってことですねっ!」
「むか......」
たまに見せる綺麗な笑顔はいつもこういうときに駿は出てしまうため、アリシアにとってはその綺麗な笑顔は嘲笑のように受けとった。
何なのよっ......!
「......それよりも。ステータス確認のために渡した水晶、返してくれる?」
「あぁ......───はい、どうぞ」
駿はバックパックから水晶を取りだし、アリシアに渡した。
「で......どうだったのよ? ステータスは」
「まずまずですかね......」
「最初はそんなものよ。後々伸びるものだから......」
「そういうもんですかね?」
「そういうものよ?」
「「ふっ......」」
二人は互いに微笑み、互いに足取りを揃えながら城へと続く人々が行き交う大通りを歩く。
「そういえばレベルが上がってなかったですけど」
「レベルは本物の戦闘経験をしなきゃ経験を積めないから、模擬戦を私と何回もしたって上がらないわよ」
「あ、そうなんですか」
そんな会話をしながら歩いていると───
うん?
───不意に一瞬だけ目の端に写ったのは、袋小路に金髪の少年が連れていかれている瞬間だった。
「......シュン」
アリシアも気づいたようだ。
「はい......行きましょう」
駿とアリシアは頷き合って、その袋小路へ入っていった。
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男三人は一人の少年を連れて、袋小路の奥へと向かっていた。
「───ねぇ......どこ行くの? 騎士団に連れていってくれるんじゃなかったの?」
手を強引に引かれている少年は、手を引いている男に困惑した表情で質問した。
「もうすぐで着くから」
男はその二メートルのがたいに似合わない優しい声で、少年にそう言い聞かせた。
「......?」
少年は困惑した表情で男の顔を見つめるが、男は構わず前に向き直り、どんどんと歩いていく。
少年は引かれるがままに袋小路の奥へと向かっていると、突然男達が立ち止まった。
「ここでいいか......」
「おう」
「やるか」
「......?」
その言葉に少年は首を傾げた瞬間───
「死ね......糞貴族の餓鬼が」
少年はスローモーションに感じている。
「────え?」
目の先に迫り来る鋭く煌めく刃を。
グサッ
袋小路にはそんな生々しい音が響き渡った。