バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

ボッチ、一ヶ月訓練をした(過去形)

訓練二日目

 駿はアリシアに「今日は走ってもらうわ」と言われ、小休止を入れながらだが四時間のほとんどを走った。山の中で訓練をするため、平坦な地ではなく、起状が激しいところを走るためか、体力の消耗が激しく、体にも負担が増えたが、その分鍛えられることが見込めた。

 駿はこういうことも考えてアリシアが訓練所ではなく山を選んだことに、隊長なだけあると思った。

  
訓練三日目

 この日はアリシアに森で戦うための訓練と言うことで、木を使った罠の作製や設置方法、水源の確保方法、食料の調達方法等、いかにもサバイバルな訓練をした。駿はこの訓練をしながらだが、一応森の行ったところの木に剣で印をつけた。

 何故こんなことをするのかというと、駿が言うには「こういうのって格好良くね?」なんだそうだ。


訓練四日目

 この日は魔法の基礎をアリシアに教えてもらった。

「シュン、まずは......火を思い浮かべてみて」

「火をですか?」

 駿は魔法をやるのにどうして火を思い浮かべなければならないのか理解できなかった。

魔法って詠唱すれば出来るんじゃないの......?

 アリシアは駿の言葉に頷く。

「そう、火よ」

「......?」

 駿は首を傾げながら、アリシアに言われた通りに火を想像する。

えっとイメージは......理科で良く使うマッチだな......

「......はい、想像しました」

 駿は目を瞑りながら、アリシアに合図を送った。

「次は手を出して」

「はい」

「手を出したら広げて、こう言うのよ? 炎よ......我が手中に宿れ」

「はい......えっと......」

 駿は慌てて広げて、次にはこう詠った。

「【火よ───我が手中に宿れ】」

 すると

ボォッ!

 と、駿の広げた手のなかに、火が浮かんでいた。

「わぁ............!」

これが......魔法っ......!

 その光景に、駿は思わず感嘆し、子供のように目を輝かせる。

 手を振ってみたり、息を吹き掛けてみたり、転がっている石に火を当ててみたり、まるで幼少期に戻ったように駿はしばらく高揚し、はしゃいだ。

「ふふっ......」

 一方、アリシアは自分のことが眼中になくなったほどただの火魔法の基礎ぐらいに夢中になっている駿が可笑しく思ったし、微笑ましくも思った。

 パァ......と、顔を一瞬で凄まじく明るくさせた時の駿の顔は、まるでアリシアの幼少期のようで、自分でも思い出してしまう。

あんな時もあったわね......

「シュン」

「はっ!?......」

 アリシアが呼び掛けた瞬間、駿はぎょっとして直ぐに起立した。

「続き......やるわよ?」

「は、はい!」

「まぁそうね......今やった通り魔法には属性があるわ。火属性の他には水属性、樹属性、土属性が主な属性ね。これらは『四大属性』って呼ばれてるわ。それと光と闇の属性があるわ。この二つは『陽陰属性』とよばれてるわ......シュンは闇が使えるんだけど、職業がダークナイトだから闇が最も適正だからね......でも、どうあがいても魔王側の職業のダークナイトは光属性が使えないわよ。一応、シュンは今確認したのだけど火属性は適正みたいね......まだ確認してない属性があるから、さっさとやりましょ?」

「はい」

へぇ......光と闇もあるのか。なんか闇属性使えるとか燃えるな......

「確かめ方はさっきの言葉の中の火の部分を違う属性に変えるだけよ」

 駿は頷き、先程のように詠う。

「【水よ───我が手中に宿れ】」

 すると

「あれ?」

 何も起こらなかった。

「......」

「適正じゃないみたいね......じゃあ次いってみよ?」

「......はい」

 駿は溜め息をついたあと、詠う。

「【樹よ───我が手中にに宿れ】」

 そして

「......」

 思わず自分の手を二度見するが、そこには何も発生してなかった。 

「これもか......次ね」

「はーい......」

「そんな気落ちしなくていいのよ? 普通は属性の適正は一個なんだから」

「そうなんですか?......はやく言ってくださいよ~」

「あはは......ごめんごめん」

「はぁ......じゃあいきます。【土よ───我が手中に宿れ】」

 これでやっと

「まぁ......俺は火属性だけってことですね......」

 駿は依然として何も起こらなかった自分の手のひらを見つめながら溜め息をついた。

はぁ......でも火属性が使えることがわかったからいいかな

「気にしない気にしない......じゃあ次は火属性魔法の初級魔法を教えるから......そうね、実演した方が分かりやすいわね」

「お! 師匠オナシャス!」

「なんなのよその言葉は......じゃあ行くわよ?」

 アリシアは駿の前に立つと、弓を引くような仕草をやって、こう詠った。

「【火よ───求めるは烈火の豪矢】」

 すると、詠唱している途中から火で出来た弓がアリシアの手から生成され、アリシアは弦を一杯に引きながら最後に一声───

「【ファイヤーアロー】」

 と、アリシアが弦から手を離した瞬間、勢いよく飛んでいく業火に包まれた矢は、狙った先にあった大木に着弾した直後に爆発が起き、丈夫そうだった大木に大きな空洞が出来た。

「おお......」

樹に火属性魔法......効果は抜群だぁ......!

 駿は初級魔法なのにこんな破壊力があることに、凄いを越えて畏怖さえ感じていた。

「まぁこんなものかしら。イメージは火を後ろに引いて、離す感じだわ......あと言っておくけど初級魔法であの威力なのは私の魔法攻撃力が高いからよ。普通だったら、矢がそのまま刺さるぐらいしかならないわ」

「あ、そうなんですか......いやぁ内心ビビってました」

 そう駿が苦笑していると

「そうよね......あなたからみたら私......怖いのよね」

......ん? なんかおかしいぞ

 アリシアは少し悲しそうな顔でシュン......としてしまった。

「......師匠?」

「あ、あぁ! なんでもないわ! ほら、早くやってみなさい」

あー......絶対なんかあるな......まぁいいか 

「あーそっすかーじゃあやりますー」

「う、うん......」

「ふぅ───」

 駿はアリシアをまじまじと見つめたあと、深呼吸をして、気持ちを入れ換えた。

こっちに集中だ......確か火を引いて離すイメージだっけか? でもこれ普通に弓を想像した方が早くないか? 

「───よし」

 駿は瞑っていた目を開き、適当に決めた大木を的に向かって見据え、イメージ通り弓を引く仕草でアリシアの詠った言葉を真似した。

「【火よ───求めるは烈火の豪矢】」

 すると、アリシアのように手のなかに弓が火で生成された。

ゆっくりと......力強く引いて

 赤く煌めく弦を心で言ったようにゆっくりと、力強く引いた。

よし......今だ!

「【ファイヤーアロー】!」

 そう叫んだ瞬間に、駿は張ちきれそうな弦から手を離した。

 それと同時に放たれた業火の矢はそのまま真っ直ぐと大木へと飛翔し、着弾した。

「おしゃっ!」

 駿は渾身のガッツポーズを決める。

 アリシアがいった通り、駿から放たれた矢は着弾した時、爆発は起きずに通常の矢のように突き刺さっただけだった。

 破壊力は圧倒的に見劣りしたが、駿にとっては今は達成感に満ち溢れていた。

おおおおおおおおお! 人生初だ! 魔法を飛ばしたのは! あぁ~もっと飛ばしてぇ......!

 駿は嬉しさの余り、アリシアの肩にいきなり両手を乗せた。

「───師匠っ!」

「え、何!?」

 駿は真剣な顔でアリシアの透き通った碧い双眸を見つめる。

かかかか顔近いわよ......! シュンの目がすぐ目と鼻の先に......あれ? なんだか顔が熱くなってきたわ......! あぁあ、もうこっちみないでよっ......でも、シュンもこういう顔するんだ......な、何か私に言いたいことがあるのかな......い、いいわ! はやく言いなさいよ!

 そうアリシアが赤面で身構える中、数秒その状況が続いたあと、駿は口を開いた





「───魔法教えてくださいっ!」





「───はぁ..............................」

 アリシアは史上最長の溜め息を吐いた。


▣ ▣ ▣ ▣ ▣ ▣


 それから、この四日間の訓練を元に、似たような訓練を毎日やりつづけた。

 駿はほとんどの時間をアリシアと共に過ごし、訓練とこの世界についての勉学に励んだ。
 そんな日々を休むことなく続け、一ヶ月経った。


 見た目が前より随分と男らしくなった。さすがに性格までは変わらなかったが。

 それでも駿は自身の急激な成長を身に感じていた。

 一ヶ月経った朝に、アリシアからステータス見に行ったら?と言われ、駿自身も気になってはいたので、この世界に来てから二回目のステータス確認を行った。

「これは......」


------------------------------

コンドウ・シュン

男性

Lv1

HP  320

攻撃力 438

魔攻力 290

MP  315

敏捷  589

耐久  227




スキル

剣術 4Lv/10

火属性魔法 3Lv/10

闇属性魔法 2Lv/10

隠蔽 2Lv/10


固有スキル

 状態異常倍加(下位)

・状態異常の効果が二倍される
・自分の体に何らかの異常が起きた場合、それが付加される

------------------------------

「随分と成長したな......」

 駿は驚いたが、驚愕はしなかった。

いやぁ......あんな地獄みたいな訓練でこんくらい上がってなかったら泣いてたところだったわ......

 ただあの訓練での見返りがあったにすぎなかったからだ。

 初めて水晶に触ったときとは違う、自信に満ちて、結果を楽しみにしていた。

「......」

 しかし、駿はステータスの紙を見ながら苦い顔をした。

「固有スキル......状態異常倍加」

 一ヶ月もたって尚、まだ自分の固有スキルの正体がわからないでいることに。

「なんか引っ掛かるんだよな......」

 駿はもう一度、固有スキルの効果を見つめた。

・状態異常の効果が二倍される
・自分の体に何らかの異常が起きた場合、それが付加される

「自分に何らかの異常をきたした場合、その効果が付加される......どう言うことだ?」

 強くなった駿は、まだ思い悩んでいた。




固有スキル────状態異常倍加の効果を。

しおり