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Episode 05 〜いろいろな人間関係〜

・〜・〜
私は海人に明日は一緒に帰れないと告げると、理由を聞かれた。だから、私は可奈と会うからというと彼は全てを察したように頷いた。

「楽しんでね。」

「うん。ありがと。」

「じゃあ明日は一人で帰るか。寂しいなー」

「ごめんね。でも寂しいからって他の女と帰んないでね。」

「そんなことするわけ無いじゃん。俺には菜々しかいないから。」

海人は他の男が恥ずかしくなるようなセリフもサラッと言える。すごいスマートだ。何を考えているのかわからない部分もあったけどもう私はかなり彼のことを理解しているだろう。

「どうしたの?なんか考えてるの?」

海人が私の顔を覗き込む。

「ううん、ぼけっとしてただけ。じゃあね!」

「うん。電話するね!」

「ありがと!」

幸せ、だと思う。その辺のカップルとは桁違いに私は彼氏のことが好きだ。
今日学校に行くと、桜咲がこっちを見てニヤニヤしてきた。本当にムカつくやつだ。

「今日だよ。わかってるよね?」

「わかった分かった。」

私がいうと彼女は満足そうな顔をして教室から出て行った。

「可奈あの転入生と仲いいの?」

沙織だ。聞いていたのか。「なわけ無いじゃん。」

「じゃあ今日だよって何が今日なの?」

「え、あーっと、ほら、同じ歯医者行ってて、その予約が今日だよって言ってくれたんだよ。余計なお世話だけど。」

「へ~。ウチラには隠し事しないでね?」

沙織が何かを探るように私の顔を見た。

「わかってるって。心配しないで。」

「良かった!じゃあ今日一緒に帰れないの?」

「うん、ごめんね〜。」

「大丈夫だよ!」

だから学校では話しかけるなとあれだけいったのに。まあいい。雪乃についてなにか知っているのならその情報は私に提供してもらわなければならない。今私が雪乃のためにすべきことは悲劇のヒロインになりきることでも、みんなにべらべら情報を話すことでもなくて雪乃の死の真相を見つけることだと思う。そしてもちろん自分のためにも。どちらかというとこっちのほうがメインだ。彼女の死には何か隠されている。それを知ることで何か変われるのではないか。死には私の知らない世界が隠されている。

〜・〜
学校で忘れられてたら困ると思ってわざわざ声をかけてやるとあからさまに嫌な顔をされた。また友達の目を気にしているのだろう。そんなことで友達と言えるのだろうか。とにかく、今日大きい情報を教えてやるのだ。あいつの反応が楽しみだ。雪乃さんの自殺について知りたい。なんか探偵っぽくてとっても楽しい。それにはワトソンのような相棒が必要だ。いや、この場合は私が相棒か。まあとにかく彼女と二人で事件を解決したい。こんなこと二度とない経験になる。なぜ彼女が私が協力するのにいい顔をしないのかよくわからない。この事件のことはなんで調べてるんだろう。好奇心からではないのか。まさか使命感?今は亡き旧友に恩返しとか?彼女は友情を美化しすぎではないか。結局みんなそこまで友達のことは大切だと感じていないのに彼女一人が友達のことを大切にしているのか。可哀想なひとだ。

〜・〜

放課後急いで教室を出ると彼女は私の下駄箱の前で待っていた。どこか緊張している面持ちだった。お前は告白する女子か。

「で、どこいくの?」

「私の家来る?」

「行かなくてすむなら行きたくない。」

「はいはい。でも公園とか公共のところだと誰かに見られる可能性あるけどいいの?」

「あー、そうか。じゃあいいや。あんたの家ね。」

「うん。」

しばらく私たちは無言で歩いていたが、彼女が先に口を開いた。

「あの、さ、可奈は沙織ちゃんたちのこと好きなの?」

「嫌いだったとしても菜々には言うわけ無いじゃん。」

「そうか。そうだね。」

どこか本当に寂しそうに見えるのはなぜだろう。もしかして少し寂しいのだろうか…まさかね。

「ちなみにその今日教えてくれる情報の元ネタは?」

「え?ああ元ネタ?」

明らかに動揺している。

「自分で見つけたの。方法は聞かないで欲しいけど。」

「自分で見つけたんじゃないでしょ。誰に聞いたの。」

「自分で見つけたの。」

「ほんとに自分で見つけたんだったら先に言うでしょ。菜々の性格なら。」

「ほんとに人のことよく見てるね。まあ自分で見つけたんじゃないよ。でもね、ネタ元は死んでも明かせません。」

「あんたはジャーナリストか。まあ気取ってるのは全然構わないんだけどさ、やっぱネタ元は知っておきたいかな。信用できる情報源かどうかも分かんないし。間違ってる情報聞くためにあんたの家なんか行きたくないからね。」

「相変わらず毒舌だね。でも信用できるよ。すっごい信用できる情報源だから安心して。」

「分かった。じゃあさ、一つお願いがあるんだけど、その人から出来るだけの情報は搾り取ってね。」

「わかった。ほら、着いたよ。」

「おじゃまします。」

家に入ると菜々の母親はスリッパをパタパタ音を立てて私の方に来た。

「いらっしゃい。えっと可奈さんだよね?」

「はい。そうです。はじめまして。」

なんだこの母親は。高校生になってこんな風にお母さんのお迎えを受けたのは初めてだ。それになんで私の名前を知っているんだ。

「菜々がいっつも話してるのよ。可奈さんのこと。さあさあ上がって。」

そういうことか。随分仲の良い親子だ。私が菜々を少し睨むと、彼女は恥ずかしそうにうつむいた。

彼女の部屋はそんなに広くはなかったけど片付いていて綺麗な部屋だった。

「かなりお母さんと仲いいね。」

「うん、まあね。っていうかすごい心配性なの。だからかなりのことを話させられるの。でもほら、友達いないから。ごめんね。嫌だったら。」

本当に申し訳無さそうに言った。なんだか意外だった。こんな風に菜々が私に謝ることなんて滅多にない。私は雪乃のことを考えなければ。

「で、情報って何なの?」

「あ、もうそこ聞いちゃう?そりゃそうか。そのために来てるんだもんね。」

そう言うと彼女は少し寂しそうな顔をした。やっぱり寂しいんではないか。

「うん。早く教えて。」

「わかったわかった。雪乃のお父さんが再婚してたの。」

「は?え、待って何を言ってるのかよくわかんないんだけど。雪乃のお父さんは亡くなってるよ?」

「それが、生きてたの。ただの離婚だったっぽいよ。」

「まじか。。。じゃあ多分生活費は遺産じゃなくてお父さんからの仕送り、か。再婚相手はどんな人か知ってる?」

「ううん。それはまだ。でもどこに住んでるかは知ってるよ。あと、子供が一人いるって。男の子って聞いてるけど。」

「そっか。いつ再婚したの?」

「確か三年前だよ。」

「三年前って雪乃のお母さんと離婚したのと同じ年だ。」

「そうなんだ〜。離婚してすぐ再婚か。」

「ってことは不倫が原因で離婚して不倫相手と再婚したって可能性もあるね」

「あ、そうか。」

菜々は感心した様子で頷いていた。

「じゃ、会いに行ってくるわ。」

「え?待って、今?え、なんて言って会うの?」


「うーん。例えば娘さんが自殺したことはご存知でしょうか。娘さんはお父さんにしきりに会いたがっていたのでぜひお墓参りに言ってくださいませんか、とか?」

「でもそれってちょっと不自然じゃない?なんでわざわざクラスメイトが行くの?」

「そうだね。じゃあもうちょっと考えてから行くか。明日にする。今すぐは多分思いつかないから。じゃあね。」

「え、もう帰るの?」

「うん。じゃあね。」

「一緒に考えようよ。ほら、二人いれば文殊の知恵って言うじゃん!」

二人いれば文殊の知恵ってなんだよ。心配になる。

「やだよ。そもそも三人寄れば文殊の知恵だし。」

「あれ、そうだっけ。でも要は人数がいたほうがいいってことでしょ。一人よりは二人でしょ。」

ほんとに適当な奴だ。

「わかったわかった。でもなんでそんなに絡みたがるの?」

「え、別に特に理由は。面倒くさい女子と関わりたくないだけで可奈はなんかちょっと違うから。」

「そっか。全然嬉しくないのはなんでだろ」

「ひっどいな〜」

菜々は小さい子供のように頬を膨らませた。

「ごめんごめん。」

「別にいいけどさ。可奈の私への態度なんてもともとそんなもんだし。」

「もっと違う態度を期待してるの?」

「そりゃ、こんな態度を喜ぶなんて相当のドMだと思うよ。」

「そっか。だね。まあいいや。とりあえず考えよ。一緒にやりたいって言ったのはそっちなんだからなんかアイデアだしてね。」

「おっけ!」

嬉しそうに彼女は笑った。

「でも、連れては行かないよ。」

「なんでーいいじゃん」

「やだよ〜」

「えーなんでー」

あまりにマヌケな顔だったので吹き出してしまった。学校での時と大違いだ。

「なんかヘマしそうな顔だもん。」

「顔で決めるなー」

「わかった分かった。じゃあさ、ババ抜きしない?」

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