復讐するは我にあり
■復讐するは我にあり
ページを捲る、捲る、捲る。
そして思考を巡らせる、巡らせる。
別にね、そこまで結婚に憧れてたわけじゃないんだ。
まだ出会ったこともない相手らしいし、未練だって持ちようがない。
たださ、湧き上がってくるんだよね。
誰かの自分勝手な思惑で、どれだけ運命が狂わされたのかっていうのをさ――いざ目にしてみると。
心の奥から燃え上がるような、抑えきれない怒りがグツグツグツグツ。
会社に行っては帰って寝るだけ。そんな繰り返しの毎日にすっかり慣れてしまった私に、まだ怒りなんて感情が残ってたことに自分でもびっくりした。
でもだからこそ、今度は本気の本気。今まで生きてきた中でも発揮したことがないくらいに真剣に、私は二冊の本に目を通していく。
もうこの際、リスクを負わず確実に生き残れる方法じゃなくてもいい。
生き残れる可能性があって、なにより私を召喚した自分勝手な馬鹿野郎を思いっきりぶっ飛ばせるような方法――それを探すんだ。
◆◇◆◇◆◇◆
それからどれくらいの時間が過ぎたのか分からない。
幾通りもの組み合わせの中から一つのパターンを選び出し、私はそれを書き出して神様へ手渡した。
――――――
【一般スキル】
・
・
・多重発動１００Ｐ 同一スキルの同時発動を行うことが出来る。
・
・
【ユニークスキル】
・魔石化５０Ｐ 触れた対象を魔石に変える。ただし魔石に変化させるまでに必要な時間は込める魔力と対象のマナ総量による。
・アイテムボックス５０Ｐ 入れる物を時を止めた状態で保管出来る、無限の容量を持つ空間。ただし生命は入れることが出来ない。
【アイテム】
・復活の玉１００Ｐ 所有者を一度だけ生き返らせることが出来る宝玉。
・神石５０個セット５００Ｐ 膨大な魔力が秘められた石。本人が所持するスキルであれば、どんなスキルでも行使することが出来る。ただし消耗品。
――――――
これできっちり１０００Ｐだ。恐らくこれが最善のはず……。
「こりゃまた、ずいぶんピーキーなスキルばっかりを選んだんだねー。神石はユニークスキル用かな？ なるほどなるほど」
私が書き出した用紙を眺めて、神様は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「〈
まじか……スキルブックにはそこまで書いてなかったから知らなかった。
要するに、どっちも人にバレたら誤解されそうなスキルってことなんだろうけど――。
「その辺は、生き残ることが出来たら考えます」
私は迷わずそう答えた。
「そっか、それじゃあ魔力の回路を作ってスキルを定着させるよん。ハイッ」
なんとも適当に発せられた神様からの「ハイッ」という言葉と同時に身体の奥に新しい感覚が湧き上がり、そして綺麗に馴染んでいく。
頭の中でも、まるで最初からそこにあったかのように、スキルの使い方を思い浮かべることが出来るようになっていた。
「それじゃこれ、この腰袋に復活の玉と神石を入れといたよー。ゲームに付き合ってくれたお礼にこのリュックもサービスしちゃうね。ポーションとか食料とか入れといたからさ。ポーションは赤が体力、青が魔力回復だから間違えないようにねー」
私はお礼を言って、リュックを背負い腰袋を身につけた。
「これで準備万端かなー？ もう向こうに送っちゃって大丈夫ー？」
「はい、大丈夫です。神様、いろいろありがとうございました」
最初はなんじゃこのおじさんは……なんて思ったけど、神様にはいろいろと融通してもらった。
感謝の気持ちを込めて、私はぺこりと頭を下げる。
「こっちも久しぶりに楽しかったから全然おっけー。そんじゃ、頑張ってねー」
神様が手を振ると、私の視界は徐々にぼやけていった。
◆◇◆◇◆◇◆
ぼやけていた視界が、パッと開けた。
開けた視界に飛び込んできたのは、いかにも召喚の儀式用といった感じの祭壇のようなもの、そしてその前に立つフード付きのローブを着た仮面の人物。
私は仮面野郎がなにかリアクションをみせるよりも先に〈
確かな手応えと共に吹っ飛んだ仮面野郎に、私はあらゆる角度から〈
最初は「グッ……！」だの「ギッ……！」だのとうめき声を上げていたが、十数発殴ったあたりで聞こえなくなった。
それからも数発殴り続けた後、すでに気を失っているのか、脱力したように壁にもたれかかる仮面野郎の頭に、最後は自分の腕でパンチを一発御見舞してやった。
「よーし、復讐完了！！」
私は最初の目標を達成したことを高らかに宣言し、素早く次の目標に向け意識を切り替える。
仮面野郎をぶん殴るのに二十秒くらい使ってしまった。
時間がない。
急いで外に出ないと……！
部屋の奥に木扉で閉じられた窓を発見した私は、躊躇することなくそこから外へと飛び出した。
