第三話「ギャンダモー大地に立ったり、立たなかったりする。」②
「……あ、あの……ロゼさん。
凄く不機嫌そうですけど……わたし、何かしちゃいました?
あと、顔赤いみたいですけど……大丈夫ですか?」
ダニオとの不愉快な念話を強制シャットアウトすると、不安そうに問いかけてきたリアンに微笑んで見る。
くそっ……顔が火照る……変質者に貴女のパンチラ見ましたよとか言われてみろ……むしろ、死にたくなる。
「ん、何でも無い……いつもの馬鹿が要らないこと言ってきただけだから。」
「……例のダニオおじさんって人ですか? 話し聞く限り、そんな悪い人でもない……と思うんですけど。」
「確かに、悪人じゃないね! でも、キモい……いわゆる変態ってやつ?
アイツのせいで文字通り死ぬ思いしてるんだから、折檻くらいする権利あると思うのよね。」
「あはは……よく解りませんけど、ほどほどに……。
ところで、5層の守護者ってどんなのなんですか?」
「ボ、ボクもそれ気になったかな。
4層までは、ちょっと強い雑魚キャラって感じだったけど、街の冒険者の人達の話だとかなり強敵だって……。」
なんだっけ……確か「機動紳士ギャンダモー」とか言うのだったかな。
「おい、ダニオ……ここのボスってギャンダモーってので、合ってた?
攻略法くらい教えてくれるんだよね? つか、教えろ、むしろ今すぐに。」
「なんかロゼたん、ダニオ呼ばわりが定着してるけど、それ君が勝手につけたアダ名だからね!
……それはともかく、5層の守護者の事かい? ああ、俺の自慢の機動騎士シリーズの第一号だ!
有名なアレと俺の大好きな紳士用モビルスーツを混ぜてみたんだ!
遠近両用のギャンダモハンマーとミサイル内臓のギャンダモシールドで攻防一体のバランス型の機動騎士だ!
テーマソングも作ったんだ! 作詞作曲:俺、VO:俺……対決ステージはBGM実装で、まさに序盤クライマーックス!
最初の難関として恐れられてるらしいが……パイロットのアミョロ・レイは付属していません! ご安心を!
弱点は……実はシールドなんだお。
ミサイル内蔵したせいで、シールドやられると盛大に誘爆すると言う残念仕様、でもオリジナルに忠実なんだけどね!
……まぁ、守護者はどれも弱点を設定してあるお……そこを上手く突けば、適正レベル以下でも攻略可能だお。
ちなみに、適正レベルは階層数と同レベルから倍くらいを想定してる。」
……こいついちいち、何言ってんのかわかんないんですけどー?
まぁ……概要は解ったから、もうダニオは用済み。
念話のラインをバツンとぶった切る。
「……んと、ギャンダモーとか言う変な騎士だって……。
盾にミサイルが付いてるから、盾狙えば大爆発するんだってさ。
意味わかんなーい。」
「はい、わたしも全然解りません! ……けど、わたし達で勝てるんですか?」
「……とりあえず、ボク……まずは遠目でいいから、見るだけ見たいな。
ダニオさん情報って、あんまり当てにならないんだよね……。」
「当てにした結果が16回全滅だもん! やってらんないわ。
当てにするのは自分たちの目と耳と、判断力って奴ね!」
そんな訳で、適当に雑魚を相手しつつ、ボス部屋へ直行。
弱っちかった二人もどちらもレベル7……。
一応、ここの雑魚相手なら背後からの不意打ちを受けなきゃなんとかなってる。
マップはダニオから強奪してるから、マッピングとか不要なのはいいよね。
慎重に通路からボス部屋を覗くとすでに別パーティが戦闘中だった。
「あら……先客さんがいるんですね……どうしましょうかしら。」
「ボクらが助太刀に割り込んでも、邪魔にしかならないんじゃないかなー。
皆、身体大きいし強そうだよ……。」
「ん……これは好都合ね。
アイツらが倒してくれれば、リポップまでしばらく時間があるはずだから、その隙に苦もなく突破できるんだけど……。
別に倒してくれなくても、ダメージ与えてくれればワンチャンある!」
ボスは鎖で繋いだトゲ付きの鉄球を片手でぐるぐる振り回して、いくつもの穴の空いた丸い盾を持った二本ツノ付きのひし形頭の騎士っぽいやつ。
紳士がどうのと言ってたけど……何がどう紳士なのか良く解かんない。
2.5mくらいと大きさはあんまり大きくないけど、赤、青、白の派手なトリコロールカラーの鎧で全身を覆っていた。
頭の部分はひし形に十字状のスリットが入ってて、真ん中に赤い一つ目みたいなのがあった。
あれが機動騎士ギャンダマー! って言うかぁ、なんか世界観が違うしぃ!
ゴメン……カラーリングもアレだし、すごくバカっぽいデザイン。
さすが、ダニオ……名前も含めて、何もかもセンス悪い。
おまけに、部屋の四方に設置されたスピーカーからは、変なBGMが流れてる……。
「燃え上がるー! 燃え上がるー!」とか連呼してて激しくウザい……おまけに歌ってるのは、どうもあの馬鹿。
良く解らないけど、あのダッサイロボに点火して松明みたいにするって歌詞らしい。
……サバトって奴なのかな? 別に詳しく理解したいとも思わない……だって、ダニオだし。
歌詞もアレだけど、パッパラパッパーってマヌケなトランペットの音色とか、もう不愉快を通り越して、殺意すら湧いてくる……。
「君も一緒に~走れー!」じゃねぇよ……命令形かよっ! 誰に命令してんだよっ! 走らねぇよっ!
けれども、戦闘自体は大混乱の様相を呈しているようで、前衛後衛入り乱れて、各々剣や魔法や弓矢で集中攻撃……。
一人の敵に対しての各個自由攻撃と言えば聞こえばいいけど……ダメだこいつら、ダニオの悪辣なシステムを解ってない。
ギャンダマーのハンマーなぎ払いで、まとめて皆、ふっ飛ばされたところへ、すかさずヒーラーが範囲ヒーリングで回復させる。
順当な対応と言えるのかもしれないけど、ガード役が外れた状態でのそれは悪手中の悪手っ!
……次の瞬間、盾から飛び出したミサイルがヒーラーへ集中、大爆発!
ヒーラーさん、無残……跡形もなくなった。
明日は我が身とでも思ったのか、リアンが私の上着の裾をギュッと掴む。
「……大丈夫、あんな風にはさせないから。」
安心させようと、頭を撫でると微笑まれる。
なんか、いつもまっさきにやられるリアンを一生懸命守ってるうちに、すごく可愛く思えてきたから不思議。
なんと言うか……この娘ってヒロイン系癒やし枠?
実は結構甘えん坊らしくて、夜寝てるといつの間にか布団に入ってきたりする。
一人じゃ寝れないとか、可愛すぎるでしょ。
私、そっちのケはないと思うんだけど、このコのためなら頑張っちゃおうって気になるよ。
むしろ、ダニオとかどうでもいいし。
それにしても……先行パーティはヒーラーが落とされたことで、もう総崩れ状態。
あれよあれよという間に、ギャンダマー大暴れでバタバタと倒れていく冒険者たち。
ハンマーはトゲトゲ付きの上に、火を吹いて方向転換までしてくる凶悪な代物。
盾ミサイルも数が多くて、手に負えない様子……これは厄介だ……いきなり挑むとか無謀な事しなくて正解だった。
……やがて、先行パーティは一人を除いて、全滅……。
最後まで奮戦していた小柄の青いごっつい重鎧の騎士がハンマーをまともに食らって、こちらに向かって吹っ飛んで来る!
通路の壁に叩きつけられて、そのままズルズルと崩れ落ちる……。
「ううっ……迷宮守護者が強くなったって聞いてたけど……これほどだなんて……くっ……殺せ!」
まだかろうじて息があるようで、苦しそうに息をつきながら、こちらへ顔を向ける。
兜のフェイスガードが外れて、その顔が見えるようになっていて、思わず目が合う。
やけに小柄だと思っていたのだけど……その中身は金髪の女の子のようだった。
武人調の口調の割に、妙に眠そうなおっとりとした目が印象的……。
「えっ? だ、誰? な、なんなんだ……君達はっ! ここは危険だから、早く逃げるんだっ!」
懸命に立ち上がろうとしながらも膝をつき倒れ込む彼女を見かねたのか、リアンが駆け寄って、彼女にヒールを施す……あ、これヤバい!
とっさに、物理保護シールドを展開しつつ少女騎士とリアンの前に立つのと、ギャンダモーハンマーが直撃するのがほぼ同時。
……思ったよりも重い攻撃!
シールドがたった一撃で割られ、交差させたダガーで辛うじて受けきった!
こうして、なし崩し的に……私達の第五層守護者ギャンダモー攻略戦は始まってしまった……。