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Episode 03 〜見えること〜

〜・〜
 チャイムを押しても母親はなかなか出てこなかった。マスコミが結構いたらしいから容易にドアを開けないのは当たり前のことだろう。

「すみません、雪乃さんと同じクラスだった安藤可奈と申します。」

インターホン越しにいうと、目を真っ赤に腫らした母親が出てきて、

「申し訳ないんだけど今日は少し立て込んでいるのでまた今度でいいかしら。」

興味本位だと思われたのだろうか。

「でも、雪乃さんにミサンガを作ることを頼まれていて、お供えしたいなと思ってお手紙と一緒に持ってきたのですが。」

すると母親は

「あら、ありがとう。少し散らかっているけど入ってちょうだい。」「ありがとうございます。」

言うほど散らかってはいなかった。

「よく雪乃から可奈さんの話は聞いていたわ。仲が良かったみたいね。」

「はい。仲良くさせて頂いてました。」

「ねえ、可奈さんに見てほしいものがあるの。」

といって取り出したのは小さなメモの写真だった。いわゆる、遺書だ。

「雪乃が最後にこれを書いたみたいなの。警察に見せたら持って行かれちゃったから写真になっちゃったんだけど。。。何かわかることある?」

遺書は以下の様なものだった

「お父さん、お母さん、今までありがとう。ここまで迷惑をかけておいて理由も言わずに死んでしまってごめんなさい。でも、楽しいまま終わりたい。学校はとても楽しかった。この先この世界に今より明るい未来が待っているとはとても思うことができません。身勝手なのは重々承知の上での自殺です。恩を仇で返すとはこのことですね。本当にごめんなさい。そして、さようなら。」

やっぱり、だ。

「雪乃、何かを思いつめていたんでしょう。明るい未来、か。。。いろいろ気付けなくてごめんなさい。」

「いいえ、可奈さんのせいじゃないわ。」

「あ!もう塾の時間なので今日は失礼させていただきます。」

「ええ。今日はありがとう。」

と言って玄関先まで行って、ドアを開けた。

「あ、でも少しお借りしてもいいですか?この写真。何か思い出すことがあるかもしれないので。」

「ええ、いいわよ。」

「では、何か分かり次第ご連絡なり訪問なりさせていただきます。」


「ありがとう。」

「おじゃましました。」

雪乃の家から出た。すると人影があった。あれってもしかして。。。なんで?


・〜・〜
ドアに耳をつければ聞こえるだろうと思ったのは間違いだった。彼女の住んでいるのは高級マンションでドアは厚く、聞くことはできなかった。

それでも何かつかめるかもしれないと思って部屋のまわりをうろついていたらドアが開いたので聞き耳を立てていると安藤可奈が出てきて目があってしまった。

「新入生の桜咲さん、だよね?どうしたの?」

「別に。あなたこそなんで下村さんの家に来てたの?」

開き直ってみる。

「ミサンガ作るの頼まれてて。それで届けに来たの。結構可愛くできたんだけどな〜」

さっきとは打って変わって馬鹿っぽいしゃべり方だった。

「ねえ、それって口実じゃない?」

「どういうこと?」

「あなたは下村さんは自殺じゃない可能性を疑っている。そうでしょ?」

「まあ、そんなところかな。」

「意外とあっさり答えちゃうのね。」

「最後の会話、聞かれちゃったんだもんね。もう言い逃れはできないって感じなんでしょ。」

「ねえ、さっきより随分違うしゃべり方だけどさっきのしゃべり方のほうが喋りやすいならそれで喋ったら?」

「うん、そうだね。でももともと友達とはあんな硬いしゃべり方はしないよ。そっちこそクールに見せるためにそんな口調なんじゃない?それなら戻せば?」

「そう、だね。うん。あ!さっき借りてきてた写真見せてくれる?」

「いいけど、何に使うの?」

「安藤さんと同じだよ。私も疑ってるの。」

「なんで?なんで転入して間もない桜咲さんが疑うの?」

「安藤さんも思ってたと思うけどだって彼女、そんな簡単に自殺するタイプじゃなさそうでしょ。別に理由もなかったっぽいし。」

「結構観察眼鋭いね。あと、可奈でいいよ。私も菜々って呼ぶから。」

私は仲良くする気はない。もう面倒くさいのは懲り懲りだ。でも、彼女なら悪くないかもと思えた。

「分かった。」

「あ、でも学校ではやめてね。あと、今日のことは誰にも言わないで。沙織たちに何を言われるか分かんないから。」

「はいはい。やっぱめんどくさいね。なんであの人達と一緒にいるの?」

「だって、楽しい時もあるよ?新しく出来たお店とか一人で行くより良くない?」「まあ、ね。でもそれだけのために普段我慢してるの?割に合わなくない?」

「価値観は人それぞれだから。」

「まあいいや。えっと、家族構成は?」

「なんか刑事みたいな聞き方だね。兄弟なしの母子家庭。雪乃が中学一年生の時になんか病気で亡くなったって言ってたから」

「そうなんだ。じゃあお母さんは働いてるの?」

「働いてはいるけど働く必要はなかったみたいよ。雪乃のお父さんが残した遺産がすごい額なんだって。確か医者やってたって言ってたな。かなり腕の良い医者だったみたいよ。」

「医者かー。そりゃすごいだろうね。」

「うん。しかも雪乃の父方のおじいちゃんに当たる人は今現役で医院長だって。そのひとからかなりの資金的な援助受けてるみたい。」

「そうなんだ。だからあんなマンションに住んでるんだ。結構複雑だね。あ、あと、写真見せてよ」

「はいどうぞ。」

渡された遺書の写真をみた。やっぱり知らない人のことはよくわからない。でも、

「かっこいい。」

「は?」

「楽しい〜幸せ〜もう死んじゃってもいいかも〜って言ってる人はよくいるけど本当に自殺するっていうのはかっこいいよ。憧れる。雪乃さんってかっこいいね。」

「自殺に憧れるなんて単純だね。」

冷めた大人っぽい言い方をする彼女に少しイラッとした。それとももしかしてこの遺書を見てなにか思ったのだろうか。

「じゃあ、これ見てあなたはどう思った?」
「別に何も。」

警戒しているのかもしれない。

「今回の件協力するから。ね?」

「なんでそんなに知りたいの?別に雪乃と関わりもなかったのに。」

「だって、そしたら何か私にも見えることがあるかもしれないじゃん。」

「何言ってるの?」

「世界が広がるかもしれないじゃん。」

彼女は少し考え込んだあと、言った。

「分かった。私が思ったことはまず筆跡。雪乃の字はあんな字じゃない。もっと丸っこくてかわいい男ウケの良さそうな字。」

思ったことってそういうことか。

「それはわかんないよ。そういう字なら作ってる可能性もあるし。死ぬ間際まで男ウケを気にする必要はないから遺書くらいは本当の自分の筆跡で書こうと思ったんじゃない?」

すると彼女はだまりこんだ。

「うーん、言ってることはわかるし一理あるとも思うけど、やっぱりそれは違うと思う。」「なんで?」

「あの子は死ぬ時まで自分のキャラは保つと思う。死んだあとホントはキャラ違ったんだねとか嫌だと思うよ。」

「そっか。」
「うん、それじゃ、」

え?何それ。あまりに唐突過ぎないか。

「え?もう行くの?」

「女子の連れションとか一緒にいるのとかめんどくさいんでしょ?」

「まあ、そうだけど」

なんか、違う。

「今日塾あるし!菜々じゃあね!」

かわいい作り笑いとかわいい声で言うとスタスタ行ってしまった。彼女なら一緒にいても良いっておもってたんだけどな。


〜・〜
家に着くとまず冷たい麦茶を飲んだ。

塾があるのは本当だがまだ時間はたっぷりある。あー。疲れた。

今日は色々あった。あの菜々とか言う子は女子とつるみたいのかつるみたくないのかよくわからない。口では否定的なことを言ってるけど実際私が行こうとすると引きとめようとするし。

ただ、世界が広がるかもしれない、というのには共感してしまった。その感覚は、分かる。

というかそもそももし殺人なら雪乃はなぜ殺されたんだろう殺されるほど憎まれてたのかな。でもそれだけならもっとすごい復讐をしてやればいい。殺されるよりも苦しい人生を生きさせられる方が辛いのだから。復讐として人を殺すなんて安直な考えなのだ。

そんなことを考えていると急にお腹が空いてしまった。今日は妹の学校の三者面談だ。家には誰も居ないのでコンビニにでも行って気になっていた新作スイーツでも買おう。

コンビニを出ると、衝撃の光景を見てしまった。

うちのクラスの杉原海人と菜々が一緒にいたのだ。しかもとても仲が良さそうに二人で笑いながら歩いている。しかも、手を繋いでる。

どういう事なのだろうか。私は家に帰ってからもスイーツに手がつかなかった。冷蔵庫に入れて、自分の部屋に入った。

杉原海人は私の好きな人、だ。なのにあんな菜々なんかに。

杉原とは中学の頃からの同級生だ。頭は良いが家が経済的に苦しく弟のために学費を残しておきたいという理由でこの古くて小さい田舎の公立高校に入学したのだ。でも、人のことを見下したりはしなかった。それどころか彼はものすごく優しい。

私の妹と杉原の弟は同級生なのでよく見かけるが共働きの両親に代わってものすごい弟に良くしてあげているのがわかる。

彼のことを好きになる理由なんてそれで十分だった。

今までは恋話で自分の好きな人のことを話す同級生が理解できなかった。別に言ったって面白いことなんて何もない、それなら自分の心のなかでひっそりと育てればいいものを、なんでわざわざ言うにだろう。叶う恋だとわかっていて、それほど自分に自信があるから言っているのだろうか。

私はそんなふうに思っていた。

でも今は違う。今は恋バナの話があるごとに杉原の話をする。理由は自分でもよくわからない。ただ、言っているだけでやっぱり好きだなってなる感覚がある。

恋に恋してるほど恥ずかしい話はないが、意外と悪いものではない。杉原は私に新しい気持ちを教えてくれたのだ。杉原は私にとってそういう人なのだ。

なのになんであんな新入生なんかと一緒にいるのだろう。明日聞き出そう。

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