一夜の大誤算
明後日はいよいよ、例のビジネスエリートとの
お見合いだ。
少しでも胸中の不安を紛らわせようと、
訪れたカフェバー『フィガロ』
あの日向が営む店だ。
―― ゴクッ ゴクッ ゴクッ
……ぷはぁぁ~っ。
こうゆう時のお酒って意外とどんどん
イケちゃうからふ・し・ぎ。
「ねーぇー、ヒデさぁん、おかわりー」
「凪ちゃん、今夜はかなり進んでるよ、大丈夫?」
「ん~……と、思う。1人で歩けるしー」
日向は苦笑しつつ、凪の差し出したカットグラスへ
新たなバーボンを注いだ。
すると、凪の後方から男の声が ――、
「ヒデ、そのバーボン、オレにツケといて?」
見合いの釣り書に添付されていた写真に
そっくりの男が凪の近くに立った。
因みに子の男 ―― そっくりさん、とか、
偶然うりふたつ、なのではなく、
れっきとした見合い相手本人・氷室竜二、33才。
しかし、かなり酔っている凪はそれにも
気が付かない。
「こんばんわ、隣、座っても?」
「どーぞぉ? 私の指定席やないしー」
氷室は自分のドリンクを日向へオーダーし、
1人分の席を空けて座った。
そして、テーブルへ肩肘ついて、
凪の横顔をじぃーっと見つめる。
凪はしばらくその図々しい視線を平然と受け止めて
いたが ――、それにもいい加減うんざりして。
深い溜息をついたあと。
「つきなみな質問だけど、私の顔に何かついてます?」
「ん~……眉がふたつ・目もふたつ、鼻が1個に
口も1個ってとこかな」
「あー、おもしろー」
(何なの? このオヤジ)
「……なぁ、オレと寝よう」
「……は、い?」
「セッ*スしようって言ったの」
「……アタマ、大丈夫? 何なら精神科のいいドクター
紹介するけど」
「あー傷つくなぁ。これでも勇気奮い起こしてキミ
みたいな可愛い子に声かけたのにぃ」
「で、いきなりエッチしようって誘うワケ?
おっさん、どんだけ溜ってんのよ」
「回りくどいの嫌いだし」
凪は”ブッ”と、噴き出し、そのまま
笑いのドツボにはまり、ゲラゲラ笑い出す。
「―― オレ、氷室竜二」
凪、笑いすぎて痛む脇腹を手で押さえつつ、
「私は凪。和泉、凪」
このあと2人は特に言葉を交わす事もなく、
互いに酒を飲み干し ――、
どちらともなく奥まった一室、
パウダールームに姿を消した。
*** *** ***
手洗いシンクの前で、立ったまま行為に
及んでいる氷室と凪 ――。
「はぁ はぁ はぁ ―― あ、あぁ……っ」
「う” ―― っ、そん、なに、締め付けんでも、オレ
は逃げんて……」
「ふふふ ―― やっぱ、溜まってた? あ、そこ
――っ……あぁン……!」
「いい声だねぇ……もったいない、噛むなよ……」
「んっ ―― あ、あの、さ……」
「……んー?」
「ん、ふっ、あぁ……わ、私、も……ダメ……」
「あー? ちょっと、早すぎんじゃね?」
「は? 何言って ―― も、**分 ―― あ、
あぁっ、ソコだめぇ ――っ」
「OK、ココがイイわけね。ホラよ!」
「あ、あぁぁ ―― っっ!!」
「っ ―― んく……っ」
ほとんど一緒に果てた後は、各々自分で後始末。
「―― なぁ、オレら体の相性はめっちゃいいんと
ちゃう?」
「んー……確かにね」
氷室、凪にキスしようとして寸前でかわされ、
仕方なくその首筋へねっとり唇を這わせる。
「今度はゆ~っくりベッドで楽しみたいなぁ~、
なんて?」
「火遊びはもうたくさん。最近私、見た目の良さは
もちろんだけど、恋愛の将来性に安定も求めてるの」
「オレ、どっちも自信アリ、だけど?」
「ふふふ……またね~♬ めっちゃ溜まりまくってた
お・じ・さ・ん」
と、手慣れた様子で氷室を押しのけ室から
出て行った。
「おじさん、って――オレ、まだ33なんだけど……」