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第十四話_人じゃなければいい。

アスデスの丘。
それはワイドワールドとクローズワールドの北側に位置するとても広い大陸だ。
『丘』と表記してあるが、実際は広大な土地が遥か彼方まで広がっているだけだ。
他にあるものとすれば、森林が広がっていたり、幾つか洞窟の穴があるだけだ。
その上空に一匹のドラゴンが空を飛んでいた。

「………ぁぁぁああ!!ぁぁぁぁ………」
「ぎゃーぎゃー騒ぐな。集中してるんだ」
「むりぶりぶりぶりむりむりむりーーー!!!速いから!!めちゃめちゃはやぁややっやややっや!!」
「五月蠅いぞ小僧、少し黙らんか」
「じゃあああぁぁぁちょっとスピードおおおおとせぇろろろろろろろろろrrrrrrrrrrrr」
「おい貴様!わしの背中に吐きおったな!!もうちょっと遠慮せい!!」
「rrrrrrr……お前の方が遠慮しろrrrrrrrr!!すぴぃどrrrrrrrrrぉおとせぇろえろえろえろ」
「はぁ、時間が無いというのに、貴様は頭が固いのぉ」
「……どっちがだ!!」
「分かった分かった」
そう言うとこのドラゴン、ノール・レイティスは飛ぶスピードを落とした。
「はぁ…死ぬかと思った」
なぜ、雅がこのような状態になっているのかと言うと。
時は、一週間前に遡る。

雅は、何か策があるというゲンさんに丘の事を任せてフィレイと一緒に翌日から雷属性の魔法を練習するようになった。
「ナニコレ…気持ち悪」
「え、そうなの?…魔力は…乱れてないけど…」
「吐きそう…ちょっとやめる」
「ええ、ちょっと休みましょ」
実を言うと、初日からあまり上達の程はあまり芳しくなかった。

「なんていうかこう、言葉で説明するのは難しいのよ。ほら、何か楽器をやっていてその音の出し方を他人に教えるって言うと難しいでしょ?あんな感じ」
「あー、俺ギターを友達に教える時結局は『練習してコツを掴め』になっちゃうからなぁ」
「それよ!だからたくさん練習しましょう。なんたってミヤビはキャパ(魔力限界値)とか色々規格外だから他の人とはちょっと違うのよ」

雅は寝転がっていた姿勢から上体を起こす。
「そうだなぁ、だから自分流にコツを掴むようにしなきゃいけないよな」
「うん。あ、でもサポートはしていくからね。一緒に頑張りましょ」
「悪いな、時間取らせちゃって」
「全然いいよ。これも勉強だし。結構楽しいし」
そう言って笑顔を向けてくれる。
「ありがとう」
その時、雅は、
「(俺、しっかり笑えてるかな?気持ち悪いとか思われたくねぇ…!)」
などと色々思春期特有の考えを巡らせていたのだが、一方お嬢様は
「うん。あ、ねぇ。ギターってなに?」
などと、全く気付いていない様子でギターについて尋ねてきた。
「ん?あぁ、それは…」
ギターについて説明しようとしていた時、一人の少女が口を挟んできた。

「あ、あのー。少しよろしいでしょうか?」
「ん?どうしたスミル?」
「あのですね、いきなり実践ではミヤビ様も大変なのではないかと…」
「えーっと…つまり…?」
雅は半ばスミルの言わんとすることを理解しながらも尋ねる。
「座学からやった方が良いのでは…?」
「うん、そうだね。なんで気づかなかったんだろう」
「ちょっと、ミヤビ。棒読みになってるわよ。そんなにショックだったの?まぁ、私も目から鱗だけどさ」

「本当、灯台下暗しとは正にこのことだよなぁ」
「え、それってどういう意味?」
「え、知らないの?目から鱗知ってるのに?」
「ええ、知らないわ。文学の授業でもそんな諺(ことわざ)習わなかったもの」
「灯台下暗しって言うのはな、例えば…そうだな。俺が、このハンカチをテーブルの上に置いて別の作業して帰ってきたとする」
「うんうん」
「あっ、アレー?ハンカチがナイゾー?どこ行ったんだー?うーん?うーん?」
「いや、思いっきりハンカチ見ながら言われても…」
「…オホン!兎に角、自分の探し物が意外と身近にあった時に使うんだよ」
「言葉で説明したほうが早かったわね」
「そんなに演技下手かなぁ、ははは、はぁ…」
庭に独特の静けさが漂う。

「それは、そうと。まずま魔術の基礎から勉強しましょう。ミヤビ、後で私の部屋に来てちょうだい」
「分かった」
この時雅の脳内では
「(ふっ!残念だったな!全国の男子諸君よ!!俺はもう女子の部屋に入るごときで動じるほどやわな男ではない!!俺の挙動不審な姿を見たかったのなら残念だったな!ふはは!!)」
などと、一種の優越感に浸っていた。



おまけ_初めての女子部屋

「(やばいやばいやばいやばいやばいやばい)」
今、雅のいる場所はフィレイの部屋の前にいる。
なぜなら
初めて屋敷を訪れた時の入浴後、少しお話しましょとフィレイから誘われその場所がフィレイの部屋だからだ。
「ふーーーっ…ふーーっ」
「(だめだ、いくら深呼吸しても逆に酸素が回って心臓がドキドキしてしまう!逆に考えるんだ。止めちゃってもいいさと…。)」
「…………」
20,21.22
「……………………」
56,57,58
「………………」
75,76,77
「……だっっはぁああ!!」
実に80秒もの間、雅は息を止め続け、盛大に吐き出したのだが
「きゃっ」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ちょっ、ミヤビ…?部屋の前で何してるの…?」
「…へ?」
そこには、花瓶に身を隠して怯えているフィレイの姿があった。


P.S.
その後、二人は楽しく互いの文化について語り合いました。

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