ハンターゲート
午前10時
シノノメ傭兵団専用のフードコート。
アズマが、遅めの朝食を乗せたトレーを運んで、席を探している。
「アズマ、今日はお休みなの?」
振り向くと、七葉がコーヒーカップを持って立っている。
「ああ、お前も休みだったのか」
「うん、だって今日はミツイ君と葵ちゃんは、ホラ」
と言って、七葉が指した先には、フードコートに備え付けられている大型ビジョンの一つだった。
「あ〜、ハンターゲートか」
ハンターゲートとは、年に数回行われる、各傭兵団の成果報告の場だ。
傭兵団は、スポンサー収益や、一般人からの寄付金やグッズ収益で運営されている。
その為、多くの人に認知してもらわなければならない。
元々は、各傭兵団の処刑した人数や、
どんな凶悪な罪人を処刑したかなどの、
情報が放送されていたが、
今では、エンターテイメント性を重視する内容も多い為、
人気の番組となっている。
興奮度の高い戦闘シーンの放送、
人気のある傭兵のランキング、
各傭兵団が代表を選び、エキシビジョンマッチを行ったりもする。
放送の理由としては、
傭兵団の宣伝の為、
傭兵団への入団数を高める為、
スポンサーを募る為、
犯罪抑止の為、
などだ。
また、一流の傭兵は、スポーツ選手と同じように、
社会規範の見本としての役割も担っている。
常識的で、正義感に溢れ、知性的であるよう求められている。
そういった事を示す場としても、広く利用されているのが、
「ハンターゲート」だった。
今日は、上に命令され、注目の若手傭兵として、ミツイや葵も出演しているらしい。
葵は、エキシビジョンマッチをやって、勝利したようだ。
30分前に放送されたの試合がスローで解説されている。
「葵も、朝っぱらから元気だな」
「あっ、ちょうどミツイ君も出てるよ」
「別に興味ないよ、七葉だって毎日会ってるんだから、必要ないだろ?」
「な〜に?アズマ、もしかしてミツイ君に妬いてるの?」
「…なんだよ、それ。
俺は、こんな目立つ事やりたくないし。
それに今さら、アイツに嫉妬したりするかよ。
アイツは、養成所の時からすでに有名人だっただろ?」
四人は、養成所での同期で、当時からミツイは全てがズバ抜けており、
多くの傭兵団からスカウトが来ていた。
「そうだけど……あっ、ほら!」
テレビでは、犯罪者擁護派の団体と傭兵団とのトークバトルが放送されている。
「では、ミツイさんは犯罪者は反省する機会を与える必要はない、
反省などできない人間達だとおっしゃるんですね?」
「はい、彼らが反省しても、罪を犯した事実は消えるわけではありませんから」
「しかし、人は過ちを経験して成長していくものでは?
なのに、現在のシュラには、軽犯罪者も未成年も全て送られているのですよ?
おかしいとは思いませんか?」
「いいえ。
大人も子供も、同じ人間なのだから、権利も罪も平等であるべきだと考えます」
「ですが…子供はおかしいでしょ!何もわからないんですよ?」
「親が管理していれば、罪を犯すことはありません。
もし、子供の大多数が罪を犯しているという事実があるのなら考えますが、
一部という事なので、やはり社会の悪となります。
大人に刺されても、子供に刺されても、人は死にますから」
「では、万引きも殺人も同じようにシュラに送られるのは、どうなんだ?」
「どちらも、禁止されている事をわかっていながら犯したのなら、
自己抑制が出来ないのですから、どちらも社会にとって悪です」
ミツイを見ながら、七葉は悲しそうな顔をしている。
「どうしたんだよ、七葉?」
「……なんだか、ミツイ君じゃないみたいだから……
いつものミツイ君は、もっと…優しい人だよ…」
七葉の瞳から、光が落ちた。
「……これは、上の奴らにそういう風に言えって命令されてるから、従ってるだけだ。
アイツの本心じゃないよ。
だから、気にするな」
「……うん…」
番組はまだまだ続きますとナレーションが入り、CMに入るようで、ダイジェストでミツイの戦闘シーンが流されている。
「……七葉、これから予定あるのか?」
「…え?…特にないけど?」
「暇だから車で海まで行こうと思ってたんだけど、一緒に行くか?」
「……うん、行く」
七葉の瞳は、悲しそうなままだったが、どうやら涙だけは止まってくれたようだ。