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悪夢の始まり

高崎県警察刑事部捜査第一課特殊殺人事案総合捜査対策室。それは、たった3人の刑事と、外部顧問待遇の老弁護士が在籍する弱小部署。回ってくる仕事といえば、他の係・班の手伝いだったり、交通部の交通安全教室の手伝いなどなのである。そんな部署の責任者が、倉間晃史。弱冠36歳の警視である。ノンキャリアで最年少の警視。全国津々浦々探しても30代の警視はいないそうだ。そんなのうれしくないと晃史は思う。うちの部署専門の特殊事案は来ないものだろうか。

特殊殺人事案総合捜査対策室に、初めて他の係の手伝い以外の仕事が舞い込んできた。県警本部のある髙澤市の隣、古くからの軍港がある大海市で、老人が殺害されたという。その老人の身元は未だ不明で、殺害方法も不明だという。死因は溺死と判明しているものの、どこで殺害されたか、またどのように殺害されたのか不明なのだ。晃史は、2人の部下と外部顧問の老弁護士、国東藤吾とともに大海市に向かった。

大海警察署に到着すると、晃史は、刑事課長の大槻警部に尋ねる。
「死体発見場所はどこですか?」
大槻は不機嫌そうな顔を隠しもせず答える。
「鉄輪町の太田戦史博物館。そこの倉庫から」
晃史は案内するよう頼み、大槻警部は嫌そうな顔をして頷いた。

発見場所の太田戦史博物館は、海軍飛行兵曹長だった太田敏夫氏の孫が設立した戦史博物館である。第二次世界大戦の事を忘れてはならないと、数多く設立された戦史博物館の一つだそうだ。
倉庫と言うのは、旧太田邸の蔵のことである。その蔵には、数多くの骨董品が眠っているそうだ。
所有者の太田雅夫館長に許可を取り、晃史と国東弁護士、部下の藏崎警部補と晴柀巡査が蔵に入る。藏崎警部補が上を見ながらこう言った。
「被害者の老人は、どうやってここに入れられたのでしょう。天井に入れるような穴はありませんし、扉はかなり丈夫で、鍵なしで開けられるような柔いものではなかったです」
それに晴柀巡査が答える。
「確かにそっすね。それに、地下からの入り口とかもありませんね」
床を撫でていたのは地下からの入り口がないか調べていたようだ。晃史は、一つ気になっていたことを言った。
「なあ。この蔵の入り口から反対側の壁は、塀にくっついてたよな」
すると、国東弁護士が納得したように言う。
「なるほど。つまり塀の一部が開閉でき、その向こうの壁も開くようになっているんじゃないかと言ってるんですね」
晃史は頷いて続ける。
「ええ。あの塀は1m90cmはありました。あそこが開くとすれば、簡単なことです」
言い終わると、すぐさま蔵の一番奥まで行く。よく見ると、周囲の壁とは微妙に色が違う長方形の部分があった。

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