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報告会

「現在のところ報告できるのはこれ位ですかねぇ」
 紅林のことはやむを得なく話すが、他の大事なところをぼかして禅雁は尋花に報告した。
 場所は病院の理事長室である。
「……それでですか? 私にここの寮に移れって言ったのは」
「それは別ですよ。間違いなくあなたを誘拐しそうな輩がいたものですから、先手を打っただけです。そうしたらまぁ、向こうさんも焦ったらしくて色々と動かれたわけです。その際たるものが、この週刊誌ですがね」
 姪っ子が見つけたというその記事を、禅雁は尋花に見せた。他にもあり、全て裏で紅林と繋がっているのは知っている。
「禅雁さんも人が悪い」
 くくく、と笑いながら理事長が言う。
「おや、心外ですね。私を轢いたときに命まで奪えなかったことが運の尽き、もしくは大人しく本人が自首してきていれば問題なかったんですよ。
 おそらくあの車に紅林も乗っていた。そして法定速度を越えて走っており、なおかつ飲酒運転だったのでしょうねぇ。轢いたことが分かったため、急いで逃げたんでしょう。その時にバックして轢いていればこんなことにはならなかったんでしょうが」
「……目撃者がいて、バックできなかったようですが」
 理事長が呆れている。
「もう一つ加えて言うなら、救急車を呼んだ方の話ですと、轢かれた禅雁さんの身体は電灯の下だったそうです。バックしたら顔が見られる可能性が高かったんじゃないかと思います」
 それを聞いた尋花の顔が引きつっている。
「下崎さん、あなたも関わったのですから言わせていただきますと、この方は『生きる強運』とか、『生きる大砲』とも呼ばれていますからね」
「た……大砲……」
「大砲です。敵対する相手を一撃で沈めるのが得意ですから」
「酷い方ですねぇ」
「……それが一度食らった我々に通用するとでも?」
「私からな何もしていませんよ?」
 この頃には尋花の顔はどん引きから、恐ろしいものを見るような表情に変わっていた。

 病院内の喫茶店へ場所を移し、禅雁は尋花と話すことにした。
「私は昔から悪運だけは強いと言われていたんですよ。他はまるで駄目。大学受験も運も味方して合格したものだと思っています。
 兄は昔から努力型の秀才、しかも人柄もいい。両親、祖父母もそのタイプで私だけが異分子だと思ったこともあります。そんな私に祖父が言ってくれたんですよ『お前の悪運はお前のためだけにあるんじゃない。弱者を守るためにあるものだ』って。その言葉に嫌気がさしたこともありました。
 諸事情あってそれが事実だと思うようになりました。
 今のところ私があなたを守る理由はこれでいいでしょう。それにまぁ、こんなお馬鹿なことをした連中にはきっちり報復をしたいのですよ。終わるまでは大人しくしていていただけますか?」
「……分かりました」
 不服そうな尋花の顔がなんとも可愛らしく、思わず撫でてしまった。

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